フリー哲学者ネコナガのブログ

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哺乳類はなぜ海で大型化するのか

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 クジラはなぜ大きいのか。地球上で最大の動物がシロナガスクジラであることはそれなりに知られているが(時に体長30メートルを超える)、実はこれは今生きている動物の中でというだけでなく、現在知られている限りでの史上すべての動物の中で、である。あるいは相対的に小さいクジラだってそれなりに大きいし、イルカやアザラシにしても、われわれにとって馴染みのあるイヌやネコよりは大きい。ともかく海洋哺乳類というものは押し並べて大きいが、どうしてこんなにも大きいのか。

 全体的に言って、海洋哺乳類が陸上哺乳類より大きいことは周知の事実だ。もっとも、とりわけ海中で大きくなれる理由については、「空間争い」が相対的に穏やかだからとか、「浮力」があるから(陸上では重力の下で体を支えうる構造をしている必要がある)とか言われていた。しかし、上の記事で紹介されている新たな研究によれば、実は別の理由もあったらしく、一言で言えば、海洋哺乳類は「大きくなれた」のではなく、「大きくならねばならなかった」ということかもしれないのだ。

 

 今回の研究(Energetic tradeoffs control the size distribution of aquatic mammals)では、哺乳類のうち約四千の現存種と約三千の化石種のデータがもとになっているが、まずわかったのは、海に入った哺乳類はもれなく大きくなる傾向がある、ということだ。ものによって大きくなったり小さくなったりしているなら、総じて大きいのは偶然としか言いようがない。しかし、実際のところ海洋哺乳類の進化には、サイズが大きくなるという明白な方向性があったのである。

 ちなみに生物は海で生まれたとされているから、海洋哺乳類は「海にかえった」一派となるが、その時期は様々であり、海にいるからといって、必ずしも海にいるもの同士で近い関係にあるわけではない。むしろ陸上に残ったまま進化した哺乳類との関係の方が強く、例えばゾウとマナティが共通の祖先から分岐したことは有名だが、他にもアシカやアザラシはイヌの、クジラやイルカはカバの近縁であるということらしい。このあたりは科学のおもしろさだが、事実は素朴に感じられる通りではないのである。

 

 さて、ではなぜ海では大きくならねばならないのか。その理由はどうも、哺乳類である限り逃れられない「熱を保持する」ということと関係があったようだ(ちなみに「熱」は厳密に言えばエネルギーの移動の仕方につけた名前なので、実際に保っているのはエネルギーである)。簡単に言えば、陸上よりも寒い傾向にある海中では、体が小さいとすぐに体温を奪われてしまうということだ。ご存じの通り、体積が大きくなるほど表面積が体積に占める割合は小さくなるから、体が大きいほど有利なのである。

 もっとも、それなら無制限に大きくなるかと言えば、そんなに食糧はあるのかということで上限もある。したがって、ここがおもしろいところだが、実は海の中では「体温を維持できるほどに大きく、しかしその体を維持できるだけの食糧を確保できるほど小さく」という厳しい制約の中で適応しなければならないのである。そう思えば実は陸上の方がはるかにサイズに幅があることがわかるが、要するに海中では、みんなむやみに大きくなっているように見えて、実はそれほど自由ではなかったのである。このあたりも「見えるものみな真ならず」だが、こういう局所的な法則を知るだけでも、生物を見る目はがらりと変わるからおもしろいものだ。

 

 ちなみに、この法則の例外(海洋哺乳類なのに大きくなっていない例)はラッコだそうだ。理由としては、ラッコは海に出てから比較的日が浅いからではないかということである(実際、ラッコはまだ海岸をさほど離れることはない)。ということは、いずれもっと本格的に海洋進出すれば大きなラッコが現れるかもしれないわけだが、もっとも、クジラだって五千万年前は四本足でオオカミかイノシシのように陸上を徘徊していたことを思えば、興味深く想像することはできても、信じられないことはないだろう。 

 

歩行するクジラ

歩行するクジラ

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