フリー哲学者ネコナガのブログ

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ペンギンにとってクラゲとは何か

Who’s Eating Jellyfish? Penguins, That’s Who - The New York Times

https://www.nytimes.com/2017/09/29/science/penguins-eating-jellyfish.html?smid=tw-nytimesscience&smtyp=cur

 

 全ての生物が行っていることと言えば、当然ながらエネルギーの「摂取」である。というのも生物は何をやっていてもエネルギーを「消費」してしまうからで、使った分を補い続けねばならないわけだが、したがってなるべくエネルギーを消費せず、かつ消費した分のエネルギーを摂取するというのが、ある意味で生物にとっての生存戦略の根本となる。

 ここまでは当たり前の話だが、もっとも、ここからただちに一つの問題が生じることになる。それは、どのような形でであれエネルギーを摂取するためには、エネルギーを摂取するというその行動自体に要するエネルギーも勘定に入れなければならないということである。いくら摂取しても、それによって得られる以上のエネルギーを消費していては、場合によってはむしろマイナスとなる。

 わかりやすい例はゾウである。ご存じのようにゾウは食べるのにも鼻を使うが、人間にとっては奇妙に思えるこの性質も、ゾウのように大きな体でいちいち手(足)を動かしていたらどれほどエネルギーを消費するかを考えれば納得できるだろう。あるいは、ゾウの歯は4本しかないが全て臼歯で、これを使って食べ物を「すりつぶす」が、同様にゾウのサイズで人間のようにあごを何度も上下に動かしていたら、食べるという行動によって食べた分のエネルギーが相殺されてしまうおそれがあるというわけである。

 要するに、生物はエネルギーを摂取し続けなければならないが、しかしエネルギーを摂取するというその行動によって消費するエネルギーをなるべく抑えながら、エネルギーを摂取せねばならない。文章だけで説明すると長ったらしいが、ともかくこれは鉄則であって、そうでない生物は絶滅しているはずである(歴史上存在したほぼ全ての生物種は絶滅していると考えられるため、中にはそういうのも本当にいたかもしれない)。

 

 さて、ところが最初に貼った記事によれば、このたび「クラゲ」に関する新たな発見があったということである。クラゲはカロリーが少なすぎるため(体の9割超が水である)、食物連鎖の末端に位置すると考えられていて、基本的にはクラゲを食べる動物はほぼいないとされていた。上で確認したことからすると、食べてもたいしたエネルギーが得られないものは食べないのが道理であるから、これは当然だろう。しかし、調査によれば、なんとペンギンがクラゲを食べていることがわかってしまったようだ。

 ペンギンは、他の恒温動物と同じく(もちろんペンギンは鳥類だ)、絶えず高カロリーを摂取する必要がある。しかし、ペンギンと言えども水中を動くのには相応のエネルギーを要するため、「食べてもほとんど意味がない」クラゲをあえて食べるはずはないだろうとされていたわけだ。ところが、4種のペンギンに小型カメラを取り付けて水中での捕食行動を撮影した結果、350時間ほどの映像の中で実に200回近く、クラゲを食べる行動が確認されたということだ。

 これがすごい発見なのは、不意に食べてしまうのではなく、明らかに「狙って食べている」とわかったからである。というのも、他に獲物があってもクラゲを食べていたからだ。つまり、ローリターンなのにあえてクラゲを選んでいるのである。これについては「他に食べ物がないから」があてはまらない以上、栄養価という意味でまだわかっていない理由があるのかもしれない、くらいしか言えないようであるが、食べていること自体が想定外だった以上、理由を知るのは簡単ではないだろう。

 

 もっとも、勝手な推測ではあるが、ペンギンがクラゲを「好んで」食べるのは、もしかしたら「文化」という可能性もあるいはあるかもしれないだろう。「好み」というと誤解が大きいが、一般に「この生物はこれが大好物です」みたいなのは人間の主観丸出しの記述でしかないが、そうした「本能的にそう方向づけられている」のと違って(こちらはふつう遺伝する)、後天的に獲得する、本当の意味での「好み」である(これは遺伝しないと考えられてきたが、最近の研究によればたぶん少しは遺伝する)。

 それが個体レベルのものであるならまだ何かを知るのは難しそうだが、集団レベルなら、「文化」として扱うこともできるだろう。要するに、ペンギンは何らかの生物学的理由によってクラゲを食べるのではなく、模倣によって後天的に獲得した行動性向としてクラゲを食べる、という考え方である(つまり、ある時ある個体がクラゲ食の楽しさに気付いてしまったのかもしれない)。これなら、イモを洗って食べるサルなどの先例もあるし、少しは真実味がある気もするだろう。今後の研究を俟ちたいところである。

 

 ちなみに、ペンギンと言えば水中ではスイスイ泳ぐが陸上ではぎこちなく歩くのはご存じの通りだが、あれはどうも、羽の内側では膝が曲がった状態らしく、われわれで言えば空気イス状態で歩いているからだという。何度でも言いたくなるが、生物はじつに多様である。

 

塩くらげ梅印1kg(業務用・クラゲ)

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