フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセーです。

何がグーグルではできないのか

You Still Need Your Brain - The New york Times

https://www.nytimes.com/2017/05/19/opinion/sunday/you-still-need-your-brain.html?_r=0&referer=https://t.co/NohR6YqPgR?amp=1

 

 なんだか仰々しいタイトルだが、ニューヨークタイムズのSunday Reviewに「グーグル検索でいいじゃないかと思われているけど自分の頭を使うべきであること」についての良い記事が出ていたので、そのあたりを少しみてみようという主旨である。もちろんこうした話はいつも「今のところ」なのであるが、だからこそ常に知識を得つつ考え続けている必要がある。

 

 最初に記事の内容をみておくと、想定されているのは「一部の知識、例えば複雑な数式などは覚えなくてもその都度ググればいいのでは」といったありがちな主張であり(さすがに説明しなくてもいい気はするが、一応「ググる」とはグーグルで検索することである。英語でも"google"はすでに動詞である)、それに対して「そうではない理由」が紹介されている。一つは文脈判断の問題、もう一つは速度の問題である。

 まず「文脈」だが、これは昔からずっとある問題だが、ご存じのようにコンピューターは文脈に応じて意味を取るということが苦手で、基本的には字面が同じなら同じ意味に取る(正確には、意味を理解してすらいない)。もちろん何らかのアルゴリズムで自然言語処理の精度が上がることは考えられるが、人間ほどに微細な使い分けを行うことは当面は難しいだろう。したがってコンピューター(の集合体)がどれほど膨大な情報を蓄えていても、それは人間の脳にある「整合性のある」知識の集合とはやはり別物なのである。

 なぜなら、人間の脳における「記憶」は雑多に情報を詰め込んでいるだけでなく、個々の要素の結びつきを常にダイナミックに書き換えているからである。だから文脈からの瞬時の判断などもできるのだが、実際「語彙」は人間にとっては基本中の基本となる知識だが、例えば本をスラスラと読むには95%以上の語をすでに理解している必要があるという。こんな文脈判断の問題などは序の口だが、要するに知識はただ持っているだけではなくて「いかにアイドリング状態であるか」が重要なのである。

 ここからわかるが、二つ目の問題はつまり、なんでもグーグルに頼っているとあまりにも処理が遅すぎるということだ。というのも、確かに数式が必要ならグーグルで確認するのもよいが、しかしグーグルが検索結果を表示するまでの時間がいかに短かろうと、パソコンなりスマホなりで「検索する」という行為全体にかかる時間をなくすことはできないからである(逆に、記憶にあればどんな知識も一瞬で引き出せる)。その点がボトルネックなのであり、これはコンピューターと脳が直接つながるまでは解消できないだろうと述べられているが、その通りであろう。

 

 ということで、記憶の蓄え方や使い方と処理速度の問題を考えれば、グーグル空間に「記憶」の働きを代替してもらうことは到底できませんということであった。もっとも、ここからは私の意見だが、だからと言ってなんでも知識は覚えるべきかと言えば、それもおそらく違うであろう。というのも、検索エンジンであれ何であれ、やはり道具は道具なのであり、問題は「いかにうまく使うか(使わないか)」だからである。

 どういうことかと言えば、例えば「現在のルクセンブルクの人口は」と言って瞬時に答えられる人もいるであろうが、こうしたことはあまり意味がないだろうということである。というのも、その人は明らかに過去にその知識を得たのであり、この手の知識では、グーグルで最新の情報を確認した方がむしろ望ましいからである。つまり、グーグルの方が得意なことはグーグルに任せて、それ以外は自分でやる、ということである。

 したがって、当然の結論だが、どちらがいいという話ではなく、最終的には個人個人が自分に合った使い方を常々考えるべきだろう。道具であるからには、使いたい人だけが使いたいように使えばいいのであり、そのことを忘れると、使えるべき時に使い方を知らなかったり、使うべきではない時に使わせられたりすることになる。

 

 ちなみに、少し前に電通のプレスリリースで「人工知能による広告コピー生成システム」というのが出ていたが、コンピューターに全くなくて人間が発揮すべきことと言えば、何よりも「創造性」というのもあるだろう。コンピューターには創造性は全くないと言ったら怒る人もいるだろうが、今はやりの「人工知能」と呼ばれているもののほとんどは、IBMワトソンですらそうだが、やっていることはただの膨大な統計処理である。つまり過去の最適化であるが、原理的には時間をかければ誰でもできるこういうことを「クリエイティブ」とは言わないのである。全く新しいものを生み出すのが創造性であるということが、どうも忘れられているのではないか。

 

人はなぜ話すのか―知能と記憶のメカニズム

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