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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

進化論の誤解(2)「ヒトはサルから進化した」について

nekonaga.hatenablog.com

 

 突然だが、来たる2月12日(今年は日曜日)が何の日かご存じだろうか。私も知らなかったのだが、海外メディアのニュースを見ていたら「Darwin Day」というのがあるらしく、これは進化論でおなじみのチャールズ・ダーウィンの業績を祝う日として百年以上続いている記念日なのだそうである(元はダーウィンの誕生日である)。

 そこで、折に触れてダーウィンの業績に触れている本ブログでもささやかな貢献として、以前に書いた「進化論の誤解」の続編という形で、ときどき見かける「誤解」について新たに書いてみることにしたい。前回は「変化する者だけが生き残る」という言葉についてであったが、今回はさしあたり「ヒトはサルから進化した」についてである。

 

 「ヒトはサルから進化した」というのは、「変化する者だけが生き残る」と同じく、ダーウィン本人の著作からのそのままの引用ではないが、しかしダーウィン進化論に含まれる根本的な主張を要約するものとして流布されている。しかし同様に、一方であまりにも簡潔であるために「誤解」されることが多い言葉となっている。

 簡単に見ておくと、「ヒトはサルから進化した」についての誤解は、要するにこの言葉を文字通りに受け取ってしまうことから生じているのだろう。つまり、この言葉のおかれるべき文脈を無視しているために、ナイーブに「ヒトはサルから進化したのだ」と思ってしまうわけである。しかし、言うまでもなくこれは誤解である。

 実際、一般的な意味でヒトがサルから進化したのだとすれば、進化論的にいえばサルは生き残っていないはずである。だから「それならなぜサルはまだいるのか」という疑問がしばしば出てくるわけだが、結局のところここでのポイントは、ここで言う「サル」は今で言う「サル」、つまり今生きている「サル」ではないということである。

 つまり「サルから進化した」というのはかなりの短縮表現であるわけだが、実際にここで言いたいのはもちろんヒトは「古代のサルから」進化したということである。したがって短縮せずにいえば「今いるヒトと今いるサルは同一の祖先から生じており、ある時から分岐して別の種になった」ということである。サルはサルで進化したのである。

 

 もっとも、それならなぜこんな言い方をするのかというと、実はダーウィンが本当に言いたかったのは、ヒト「も」進化によって生じたということだからである。つまり、問題はヒトが何から進化したかではなく、「進化した」の方なのである(というか、元をたどれば全ての生物は祖先を共有しているのだから、この抜粋は恣意的である)。

 そもそも、実はダーウィンが最初に進化論を論じた『種の起源』では、人間についてはいっさい触れられていない。ただ最後に一言、以上述べたことに照らせば、という形で「人間の起源と歴史にも光が投げかけられるであろう」と書いているだけである。当時は人間の由来について語るのは憚られたため、ひかえめにして様子を見たらしい。

 そしてダーウィンは十二年後、1871年の『人間の由来』でようやく人間の進化について語っているのだが、要するに「種は不変のものではなく、時とともに変わりうる」というだけでも斬新だった時代であり、そこで人類すらも(神が創ったのではなく)自然に生じたと主張するのは、それ自体がものすごいインパクトをもっていたのである。

 それなら「ヒトはサルから進化した」というのは「進化という現象は普遍的である」とも読み替えられそうだが、実際に本人の主張は何をおいてもそれだろう。『自伝』を読んでもこのあたりの周囲の反応に対しては慎重な様子が伺えるが、ともかく、進化論の論理を理解せずしてこうした短縮表現を誤解しないことは難しいということである。

 

 ちなみに、ダーウィンの業績については数多論じられているが、間違いなく読むべきはいつでもダーウィン本人が書いた本である。中には「真っ赤な嘘だ」と主張している人もいるが、もちろんダーウィン進化論は多くの修正もなされているが、これを全否定するなら、その人は一から創り上げた全く新たな生物学体系を同時に示す必要がある。

 

人間の由来(上) (講談社学術文庫)

人間の由来(上) (講談社学術文庫)

 
人間の由来(下) (講談社学術文庫)

人間の由来(下) (講談社学術文庫)

 

 『人間の由来』は長らく手に入りやすい邦訳本はなかったが、先ごろこのように新訳が出た。ちなみに『種の起源』と『人間の由来』と『人及び動物の表情について』で進化論の三点セットである。ただし『人及び動物の表情について』については読みやすい邦訳はまだなく、岩波文庫には入っているが、日本語が古く、旧字である。

 

ダーウィン自伝 (ちくま学芸文庫)

ダーウィン自伝 (ちくま学芸文庫)

 

  『ダーウィン自伝』は自伝に加えてノートや書簡のコレクションとなっている。後半はプライバシー的にどうなんだとも思うが、私的なダーウィンが垣間見られておもしろい。文章は全体的にどこかコミカルである。ちなみにこの自伝は「私がすでに死んであの世におり、自分の生涯をふりかえって眺めるというような気持で」書いたらしい。

 

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