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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

「キリン」は四種の生物の総称だったという話

www.natureworldnews.com

www.scientificamerican.com

 

 キリンといえば、「首が長い」ことは誰でも知っている。もっとも、もしかしたら多くの人がキリンについて知っているのは「首が長い」くらいかもしれない。だとしたら、あまりにも何も知らないであろう。

 あるいは、「あれだけ首が長くても、首の骨の数は人間と同じだ」とか(事実)、「日本でペットとして飼育することが認められている最大の動物だ」とか(事実)、ヒョウとラクダを交雑すればキリンが生まれる(誤り。ただし古代アラビアの学者はこのように考えていたので、キリンの学名は「Giraffa camelopardalis」となっている)とかいうのも知られているかもしれないが、それとて断片的な知識に過ぎないだろう。ともかくキリンについては、一般的にはよく知られていない。しかし、知らないのは素人だけではない。

 

 上のニュースによると、最近になって『Current Biology』誌に掲載された研究結果では、これまで「キリン」と呼んでいた動物群は、実は「キリン」という単一の種ではなく、四つの異なる種に分類するのが妥当だという結論に至ったらしい。

 これまでにも、地理的な隔離等を考慮して「亜種」(「種」の一つ下位の区分で、「種」に比べると区別すべき根拠は薄い)なら十種前後に分けられていたが、今回のDNA解析の結果では、種レベルで分けるべき差異が認められたということだ。

 これは結構、驚くべきことだろう。なんといっても「種」は基本中の基本となる分類区分である。程度の問題はあるとは言え、たとえるならチンパンジーもゴリラもヒトもまとめて「オランウータン」としていたような話である。あるいは、時にこうした研究の契機ともなっている動物保護の界隈でもインパクトがある話だが(別種ならそれぞれの種を「保護」せねばならないから)、常識を疑うという意味でも興味深い話である。

 

 もっとも、上では「驚くべき」と言ったが、実はこうしたケースは珍しくないのかもしれない。たとえば「ゾウ」についても、長らくインドゾウとアフリカゾウの二種しか現存しないと考えられていたのが、2001年になって「アフリカゾウ」には異なる二種が含まれていることがわかった。

 おもしろいのは、この二種はいかにも一種にとどまっていそうだったのに、分かれていたということだ。一種は森林に、一種はサバンナにと棲み分けているのだが、森林とサバンナは隣接しているから、交配があってもおかしくはなさそうである。しかし、二種はなんと、約250万年前にはすでに分かれていたのである。それを「同じ種」としていたわけだ。

 

 もちろん、DNAレベルでの研究ができるようになったからこそわかり始めたことというのは数多くある。あるいは、「種」を同定するというのも実はそれほど簡単なことではないし(そもそも「種」の定義ですら未だ確固たるものとは言えない)、あらゆる種が分け隔てなく研究されているわけでもない。

 しかし、科学的知識としてわれわれが知っていることが、実はどれほど「間違っているかもしれないか」ということに想像力をはたらかせてみることは、興味深いことでもあるし、必要なことでもあるだろう。「科学」という営みは確かに進歩しているが、その枠組みにとらわれすぎることで、思い込みも増えているかもしれないからである。

 

キリン伝来考 (ハヤカワ文庫NF―ライフ・イズ・ワンダフル・シリーズ)

キリン伝来考 (ハヤカワ文庫NF―ライフ・イズ・ワンダフル・シリーズ)

 

 ちなみに、手元にあった本書(原著は1928年)では、動物学者によるとキリンは二種に分類されている、とあるから、詳しいことは知らないが、ずっと一種とされていたわけではないようだ。本書は生物学ではなく、各時代各地域で人々がキリンをどう見てきたかを描いた一冊。


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