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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

幸福感を得るための5つの方法─科学によれば

time.com

 

 TIME誌のWeb版に「The 5 Habits That Will Make You Happy, According to Science」というのが出ていた。5つの方法と説明の要約は以下の通り。

 

  1.  過去に一番幸福だった時に聴いていた音楽を聴く:音楽を聴くと、最後にその音楽を聴いていた時の状況を思い出しやすい。
  2.  笑う、およびサングラスをかける:人は幸福になると笑う。脳にとって笑いと幸福はセットである。だから、幸福が笑いを呼ぶことの裏返しとして、笑いが幸福を呼ぶ。笑え。そして、光が強い時に外出するならサングラスをかけよ。強い光を浴びると目が細まる。目が細まるのは心配している時だ。
  3.  ゴール(目標・目的)に目を向ける。そうすれば見える世界が変わる:目の前の状況がどんな時でも、長期のゴールを思い浮かべよ。そうすれば感情をコントロールできるし、ドーパミンも放出される。つまり、悩みや心配事にとらわれるのをやめることができる。
  4.  睡眠を大事にせよ:睡眠に問題があると抑うつ的になり、逆に、抑うつ的になるとよい睡眠がとれない。日中は太陽の光を浴びて、夜はなるべく弱い光のもとで過ごすこと。そして、脳にリズムを教えるために、寝る時間を一定にする。もしくは、毎日ベッドに入る前に特定の儀式を行うことで、脳に寝る準備をさせたりする。
  5.  前頭前野を使え:前頭前野は唯一、思考を司る脳の部位だ。そして、前頭前野が働いている時は他の部位の機能は抑えられる。つまり、悩みや心配事にとりつかれていたり、生産性が下がっている時、ぐずぐずしている時などは、前頭前野を働かせればいい。小さなことでもよいから次の行動を「考える」。

 

 以下、これらについて記事に書いてないことを補足。このリストがどういう基準で選ばれたのかハッキリしないが、一口に「科学」と言ってもここにはずいぶんいろんな考え方が混在している。

 

 まず、「過去に幸せだった音楽を聴く」。これは一番手軽な方法だろう。記憶には「エピソード記憶」というカテゴリーがあるが、この方法はそれに基づいている。エピソード記憶とは、知識としての記憶や手続き的な記憶(車の運転の仕方とか)とは違って、個人的、つまり「自分が経験したこと」に関する記憶だ。

 記憶は常にひとかたまりのものとして呼び起されるので、エピソード記憶では、自分が体験している以上、その時の体感も同時に想起される。だから最も幸せだった時に聴いていた音楽を聴けば、その時の幸福感も体感レベルで戻ってくるということだ。

 もっともこの方法の問題は、戻ってくるのは幸福感だけではないということだ。たとえば、自分が今、その当時の自分とは全く違った考え方や価値観を持っていたとしても、当時を思い出すことで当時のメンタリティー全体が呼びさまされるリスクがある。つまり、下手をすれば過去にとらわれ、成長を妨げることになりかねない。

 ただし、どうしようもなく落ち込んでいる時などには効果的だろう。本来はわざわざ音楽を聴かなくてもはじめから頭の中で思い出せばいいのだが、それも難しい時には「音楽を聴く」というのは今ではボタン一つでできるから手軽だ。逆に言えば、幸福を感じている時はその感覚を特定の音楽に結び付けておくといいかもしれない。

 

 二番目、笑うおよびサングラスをかける。これは心理学で言えば比較的古い考え方に根差していて、外部刺激や身体状態が行動や情動と即座に対応するものと前提されている。幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ、というのは心理学でも一時期流行った考え方だ。

 ただし、今では少なくとも「幸せ」に関しては外部刺激は関係ないとされている。なぜなら、どんな状況であろうと、本人が「幸せだ」と感じればそれが「幸せ」だからである。これは循環論法に聞こえるが、それでも「幸せ」がどこまでいっても個人の脳内状態である以上、その由来を問うのはナンセンスなのだ。

 もっとも、確かに「口の両端をつりあげておいてください」(強制的な笑顔をそれと知らずにつくらせる)と指示されてから作業をこなしたグループの方が同じ作業を楽しく感じたという実験結果もあるから、効果がないわけではないかもしれない。しかし、もっと効果的な方法があるということだ。

 

 三番目、ゴールに目を向けよ。これは今でも様々な形で使われている方法論だ。心理療法や自己変革などのメソッドにもそうした変化が顕著にみられる。昔は何か心に「不具合」があると、その原因をまず探る必要があるというスタンスだったが(精神分析)、今では過去は追究せずに、ゴールをベースに未来志向で心に働きかけるというアプローチが主流である。

 ゴールをイメージすると「ドーパミンが出る」のはなぜかというと、ドーパミンというのは思考や行動を「促す」ホルモンだからだ。一時期は「快楽ホルモン」とも呼ばれていたが、これは「現在の状態が幸せ」なのではなく、頭の中でゴールを思い浮かべることで「未来に起こるであろう幸せ」を先取りしているのだ。

 だから、どんな状況であってもゴールを思い浮かべることで幸福感も得られるし、またその未来に進むためのモチベーション(ドーパミンが出るので)も引き起こされる。ここからわかるように、幸せな状態があるから幸せを感じるのではなく、幸せな状態を自分で脳内に先に作ってしまえば、状況の方は後からやってくるということだ。

 いずれにしても常に「未来志向」であることがこの方法のポイントで、これはポジティブ心理学やパーソナルコーチングなどの流れにもあらわれている(マーティン・セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』、ルー・タイス『アファメーション』などを参照)。「科学的」ということで言えば最新のものだろう。「ゴールに向かう行動をしていること」を「幸せ」と定義する場合もある。

 

 四番目、睡眠を大事にする。これは当然だが、そもそも人類がこんなにも知的能力を発達させたのも、質のいい長時間の睡眠をとれるようになったからだ。睡眠中には、記憶の整理をしたり、壊れた細胞を修復するためのホルモンを出したりしている。これらが定期的に行われないと、人間の脳はパフォーマンスを発揮できないようになっているのだ。その意味では、幸せ云々以前に「人間的に生きるため」の条件である。

 「日中に光を浴びる」のと「夜に浴びる光を弱くする」のは同じ目的にもとづいていて、睡眠のために重要なホルモン(メラトニン)の量を適切に調節せよ、ということだ。メラトニンは、太陽の光を浴びると14~5時間後くらいに出るホルモンである。だから、眠りに入る時間から逆算して光を浴びると効果的になる。

 ただし注意すべきは、14~5時間たって実際にメラトニンが出ている時に光を浴びてしまうと、生成されていたメラトニンが消えてしまうことである。だから、夜は光を浴びるのを避けるに越したことはない(ほんの数百年前まで、人類にとって夜はほぼ真っ暗だったことを忘れてはいけない)。特に寝る直前の数時間はディスプレイなどを見ないことを心掛ける必要がある。

 次にすぐに眠れるようになる「儀式」だが、これは脳の一般的な性質に根差していて、自分の頭の中で特定の二つの行為・状態を意図的に結びつけると、一方が起きた時にもう一方も誘発されるということだ。だから特定の行為を寝る前に行って、その行為と「眠る」という行為を脳内状態として結び付けておく。

 たとえば、寝る前に腕を大きく広げてあくびをするということを毎日やる。繰り返していると、脳の中でこの意図的なあくびと「眠る」という行為が次第に結びつく。こうして脳が結びつきを学習すれば、次第にあくびをしただけで脳は「眠る」という状態を誘発するということである。

 

 五番目、前頭前野を使え。これは「ゴールに目を向けよ」と関係するが、ゴールを立てるためには「思考」したり「創造性」を発揮したりする必要がある。こうした能力を司るのが「前頭前野」である。他の動物に比べて、人間は前頭前野を顕著に発達させていて、大ざっぱに言えば分析的、あるいは抽象的な思考が行えるのはそのおかげだ。

 おもしろいのは、進化の過程で後から付け加わった領域ほど、より古い領域での情報処理に介入できるということである(これについての古典はポール・マクリーン『三つの脳の進化―反射脳・情動脳・理性脳と「人生らしさ」の起源』)。そして最も新しいのが、他でもない前頭前野である。「思考」すれば前頭前野が働く。だから、情動に支配されている時は何でもいいから思考せよ、となる。

 

 さて、こうしてみてわかるのは、「幸せ」そのものが二つに分けられるということだろう。一つは脳内状態としての幸せだが、これは客観的に定義される幸せだ(たとえば「セロトニンがよく出ている状態」)。

 他方、それとは別に「ゴールに向かう幸せ」というのがある。これは、自分でゴールを立てて、それに向かうことにより生じるから、主観的にしかわからない。ゴールは人によって全員異なるからだ。逆に言えば、自分で決めるこの幸せこそ、求めるべきものなのである。

 そこでこれらを併せて考えれば、一番簡単な方法は、まず「今、幸せだ」と無条件で思うことである。どんな状況であれ、幸せだと思った人が幸せだからだ。その上で、どこに向かうのかを自分の意思で自由に決める。脳内状態としての幸せの方はお金でも手に入るから(たとえばある人にとっては温泉に入る、ある人にとってはお酒を飲む)、人間的な生き方がしたければ、「こうなれば幸せ」というのを自分で決める必要があるのである。

 

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三つの脳の進化―反射脳・情動脳・理性脳と「人生らしさ」の起源

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