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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

電子書籍をどこで買うか─電子書籍市場のゆるやかな予測

読書論・メディア論

 「電子書籍」が出版市場に参入して久しい。現在は明らかに過渡期だからまだ先行きは不透明な部分もあるが、他の分野と比べつつ長い目で見れば、落ち着きどころはなんとなく見えてくる。ここでは「電子書籍をどこで買うか」という基本的な問題とともに、電子書籍業界の先行きを少し考えてみたい。

 

 「電子書籍をどこで買うか」というのは、電子書籍ユーザーの間では少しは考えられたことであろう。典型的には「電子書籍はクラウド上での(ダウンロードできるという)権利を買っているだけだ」という発想のもと、「その企業がつぶれたら消滅する」という心配にもとづくものである。要するに紙の本と違ってモノではなくサービスを買っているのだから、資産にはならないぞ、ということだ。

 もちろん、本を買うことによって得られる「資産」を「本そのもの」とみるか、「読むことによって得たもの(つまり頭の中に蓄えられるもの)」とみるかという別の問題もあるが、読むためにふつうに出回っている紙の本については資産価値は今のところ(いずれはまた別の話だが)ほとんどないから、多くの人はおそらく後者であって、前者を主張する人はちょっと議論が錯綜している。

 そこで後者ということなら、「その時読めればいい」という話になる。もちろん何度も読んだりあとから読んだりもするから「いつまでもいつでも」に越したことはないが、「読むことによって何かを得る」というのが本を買う「目的」であれば、やはりとっておく方に重きを置いても仕方がない。端末間の互換性とてどうなるかわからない。だから電子書籍については、すぐ読みたい本を「読み捨て」感覚で買うのが今のところは妥当であろう。

 実際、電子書籍で読んでから紙の本も欲しければ紙の本も買う、という人もいるし、あるいは、少なくとも今のところは「いつでもどこでも」読めるということを考えて、逆に紙の本を手放す時に電子書籍で買いなおすという人もいる。ライブラリーだけデジタルである。このあたりは人それぞれだが、結局のところ大多数は両方使うということで、ともかく当初言われていたように「電子書籍が紙の本にとってかわる」というのは、いまだほとんど実感されていないであろう。

 

 もっとも、実感があるかというのと現実味があるかというのは別の話で、現在は実感はなくとも、将来的な現実性ということであれば、長い目で見れば、「紙の本の役割すべて」を電子書籍が担うようになるかは別として、「実態としては」大多数の人がもっぱら電子書籍を読んで、紙の本は一部の人のための嗜好品として別の価値を提供するようになるであろう。ユーザビリティもおそらく(時代の趨勢を加味しつつ)洗練され、次第に不満はなくなるはずである(「扱いやすく」なればよく、べつに紙の本に近づく必要はない)。

 これらは結局、音楽業界で今まさに起きていることである。「出版と音楽では中身がずいぶん異なる」という人もいるであろうが、コンテンツが異なっても、芸術は別として、市場に出るものは「コンテンツを売っている」ことにかわりはないから、ビジネスモデルとしては同じものに収斂する可能性が高いであろう。音楽ではCDも廃れてデジタルは定額聴き放題、アナログは嗜好品になった。要するに、本も将来的には定額制となって、「紙の本」は嗜好品になるだろうということだ。

 もちろん、そこでの「定額制」がどのように担保されるかはこれまた別の話だが、おそらくほとんど読み放題となって、利用料も実質は無料かほとんど無料に近いものになるであろう。あるいは無料なら、それこそウェブサイトやブログ、SNSのように広告収入型になるのかもしれないし(これは今は試験段階といえるだろう)、あるいは定額制なら、水道光熱費や通信料のような感覚で払っているであろう。今、税金を払っているから図書館で本が読めるのと同じである。

 

 もっとも、「図書館」ということであれば、「デジタル版」になるだけで何もかも同じかといえば、これも別の話である。というのも、誰でも入れるような典型的な「図書館」の多くはつまり公営だからである。市民だれでもがどんな本でも自由に読める状況をわざわざ作るような間抜けな権力は、歴史上一度も存在したことがない(あるいは今でも図書館にある本とない本があるのは、予算の都合だけではない)。

 したがって仮に読書機会の提供や出版の公営化・国営化などという議論が出てきたら、全力で止めるしかないであろう。言うまでもなく、「思想の自由」や、「表現の自由」の一部としての「出版の自由」というのは、近代史の中でもとくに個別に重視されてきた「自由」である。これを崩すことは、少なくとも民主主義を掲げている限りやってはならないことだ。目先の損得計算だけで動くと、痛い目をみるどころでは済まされない。

 あるいは国家が出てこなくとも、現代世界では権力は分散しているから、国家よりも権力を持っている企業もすでにいくつもある(TPPの域内に入れば日本でもこちらがふつうになるであろう)。つまりは、私企業であっても独占体制や一極支配というのはいずれにしても避けなければならない。あるいは大企業の本丸は国家のトップと結びつきやすく、IT業界ならばなおさらであるから、そういうことも頭に入れておかねばならない。

 

 さて、「電子書籍をどこで買うか」という話であった。最初の問いの通りでここまでの話からいえば、「どこでもよい」であろう。なぜなら、おそらく将来的には何らかの形で、ほとんど無料でほとんど読み放題になる可能性が高いから、つまりは「持っている」とか「持っていない」とかいった概念そのものに意味がなくなるからであり、当面は読み捨て感覚が妥当だからである。ただし、これはあくまでもミクロ経済のレベル、個人の些細なリスクヘッジの話である。

 したがって後半でみたようにもっと大きな画でいえば、民主主義の根本を担うものの一つとしての「読書の役割」や「出版業界」を「どのようなものにしていきたいのか」という、一人の国民、一人の市民としての考えを持った上で行動するに越したことはない。当然だが、お金を出して何かを買うということは、その企業を応援するということだからである。表面上はなんだか「別の話」のオンパレードになってしまったが、要するにすべてはつながっているのである。

 

 最後に、私自身がどうしているかと言えば、洋書はアマゾンで、日本語の本はもっぱらhontoで買っている。これは私的な使いやすさと社会的な考えの折衷案である。「電子書籍はアマゾン一択」の人を除けば、たぶんそれなりにメジャーなやり方であると思われる。もっとも、比べ倒したというよりは、ほどよく様子を見ながらここに落ち着いたという感じである(よくある蔵書数比較は、基準がないし絶対数が少ないので今のところほとんど無意味であり、自分で読みたい本があるか見てみるしかない)。

 まず洋書に限っていえば、そもそもキンドル端末で読んでいるのでこれはほぼアマゾン一択である。一応、他で買っても形式が合えば読めるが、私の読む範囲内では基本的にアマゾンになければどこにもない。そして、co.jpでも洋書は買えるが、本国で買う方がいろいろと面倒も減るので.comで買っている。日本語の本をアマゾンで買う場合はco.jpを使うが、言語が混ざるのを避けたいのでアカウントそのものを分けて、日本語は別端末で読んでいる。

 もっとも日本語の本は、アマゾン独占モノを除けば、基本的にはhontoで買っている。要するにマンモス企業よりはできる限り日本の企業から買いたいのだが、蔵書的にも私が読む範囲では基本的にhontoでカバーできる。そしてhontoは常にかなりの割引やポイント還元があるから(これはシェア拡大のための一時的措置であろうが)結果的に「万遍なく」安く、ポイントは丸善やジュンク堂など提携書店で紙の本を買うのに使っている。読書家にとっては、楽天ポイントで還元(kobo)よりはこちらがベターであろう。

 

 ちなみに、電子書籍となれば私は新書ばかり読んでいる。新書はいちいち買っているとやたらに場所をとるし、そもそも雑誌感覚で読んでいるからである(ある友人は、「新書はジャンクフードだ」と表現していた)。近年の新書は点数がむやみに増えて質が落ちたとはよく言われるが、これには事情があり、ちょっと前に相次いだ雑誌の休刊・廃刊の時に雑誌編集者が新書の編集に流れ込んだのである。

 それゆえに志向が雑誌的になりがちで、結果的に一冊の本としての芯が弱い、雑誌の特集を引き延ばしたようなものが次々と出てくるようになった。だから本当に雑誌感覚なのである。もちろん今でもいい新書もあるが、ターゲティングも含め新書界の流れの一つとして「雑誌化」があるのは確かで、だからこそ電子書籍向きだといえるだろう。このあたりは次第に、読む側と出す側の流れが今以上に相互作用してくるはずである。

 ということで、スキマ時間用に電子書籍を読んでいる人などは、新書を買うのがおすすめだ。結構古いものでも電子版が出ていたりする。ちなみに、新書以外で最近買ったのは石井光太『写真増補版 神の棄てた裸体』である。もともと一冊にまとめられたルポだが、地域ごとに分冊してそれぞれに写真をかなり足したもの。紙書籍では写真掲載にいろいろな制約があるが、電子書籍ならフルカラー写真をふんだんに使える。こういうのも電子書籍の利点である。

 

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