読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

エネルギー問題とはなにか(+エネルギー関連おすすめ本)

www.cnn.co.jp

 

 電気自動車が走りながら充電できる道路がイギリスで実験的に導入されるらしい。バッテリーの性能問題は電気自動車(EV)の弱点だったが、止まっていちいち充電していたのが、無線で充電できるようになるということだ。ワイヤレスでの送電はスマートフォンやシェーバー、電気歯ブラシなど身の回りのものではすでに実用化されているが、これが進んでそこらじゅうの道路が送電しているということにもなれば、別の問題もいろいろと出てきそうである。

 

 ところで、何事も実験的導入は不可避とは言え、EVの割合を考えれば、これは社会的費用の観点からも問題になるであろう。社会的費用については以前に少しだけ書いたが(「自動車の「社会的費用」とは」)、たとえば自動車で走るためには、自動車を買うだけではなく、そのための道路や施設を(税金などで)整備する必要があり、土地も占有するし、また排気ガスなどはすべての人が影響を受けるから、要するに自動車が走るための費用は、自動車で走らない人も負担しているということだ。

 これがEVともなれば、使用人口はより少数になるし、たとえばEV用のレーンをEVに優先的に走らせねばならないことなどになると、自動車のドライバー内でもカーストができそうである。あるいはもちろん道路を整備するのにももちろん税金が投入される。したがってこうした「社会的」な問題については、企業や特定の人々の利益だけから推し進められるべきものではなく、国民全員が事前に十分に考えて熟議している必要がある。

 たとえば、そもそもEVというものが「CO2を輩出しない」とか「エネルギー効率がいい」というはなしであるが、もちろんこれはビジネスの論理での宣伝であって、車一台、ドライバーひとりでの目線のはなしである。ハイブリッド車(HV)も含め、表面的にはいいことづくめでも、大きな画で考えると問題が見えてくる。たとえば、実際問題としてEVを一台つくるには、作る段階で膨大なコスト(費用&エネルギー)がかかるし、そこでかなりの二酸化炭素を排出する。クリーンでもなんでもないのである。

 

 いずれにしても、国民の声にこたえて何かが登場するのが「民主主義」の論理であって、そうでないところに登場するもの(多くは資本主義の論理で)については常にウォッチしておく必要がある。「エコロジー」の論理などはその典型であろう。「地球にやさしい」とは使い古された言葉だが、地球以外にはそもそも住みようがない人類、生態系の一部である人類が、上位概念である「地球」に「よいこと」をするというのは原理的に不可能である。

 こと資本主義社会においては、曲がりなりにもエコロジーの論理が成り立つには、「エコでないと儲からない」ような状況を作り出すしかない。逆にいえば、消費者側がよくものを考えていない場合、企業側は「エコである」と消費者に信じ込ませさえすればいいわけだから、消費者が自分の考えをもってその通りに行動していなければ、社会的な問題は続々と出てくることになる。このあたりは個人においてまったくの自由と自己責任である。 

 

 もう少し話をひろげると、素人には着地点がわかりづらい「エネルギー問題」についても、結局は同じところに行きつく。たとえば「石油がもうすぐ枯渇する」と言われ続けているのに枯渇しないのはなぜかとか、石油や天然ガスの価格の上下動はどのようなメカニズムによるのかとか、エネルギー不足とは何かとか、そもそもエネルギーとは何かとかいったことを知り、現状について考えている必要がある。

 「エネルギー不足」については、この概念が社会的なものであって、自然科学的にはありえないものだということが大前提であろう。言うまでもないが、宇宙においてはエネルギーの総量は決まっているのであり、減ったり増えたりすることはない(エネルギー保存則)。ただ、人間にとって便利な形でのエネルギーが、想定している形でどれほどとってこれるかという話である。したがって議論は終始「政治的」であらざるをえない。

 つまり、問題はどのようにまわすかという話だということがわかる。エネルギーは常にどこかにあるのであり、E=mc^2で言えば、チョコチップクッキー1枚にもTNT火薬の8倍のエネルギーがあるのである(リチャード・ムラー『サイエンス入門 1』)。代替案としてよくあげられるのは水素エネルギーだが、これはやるためのコストの方が上回ってしまうので本末転倒だ(水素エネルギーは一次エネルギーではない)。そもそもエネルギーに関して今さら「夢がある」というのに無理があり、人類が地球に生きている以上、永遠の「持続可能」は科学的にありえないのである。

 もっとも、一年ほど前にロックフェラー財団が石油エネルギーへの投資(8億4千万ドル)をやめると発表したように、アメリカの一部ではすでに代替エネルギーの目途は立っているらしい。アメリカならシェールガスというのもあるが、それとは別の話である。事実、ロッキード・マーティン社が同じころ、トラックの荷台に乗るサイズの核融合炉を十年以内に実現させると発表している。核融合技術とは、要するに太陽が年がら年中やっていることを模すわけだから、とてつもない技術である。しかし本気らしい。

 

 こうしてみれば、エネルギー問題についてわれわれが第一に考えていなければならないのは、次のエネルギー源として何を選ぶかという話であろう。原発が論外なのは言を俟たない。あるいはエネルギー取引にはFTAもかかわっているから、結局はTPPとも表裏一体である。要するに、エネルギーがあるかないかという話ではなく、さまざまな政治的圧力のもとで、エネルギーをどのような形で、どのようなルートで、どれくらいのコストをかけて「とってこれるか」という話なのである。もちろんそれは「どのような社会に生きたいのか」ということを抜きにしては議論できない。

 

 ということで最後に、エネルギー関連おすすめブックリストを作っておこう。私が読んだことのある範囲でのものだから網羅的ではないが、いずれにしても社会問題や政治経済、つまり社会科学の次元で何かを論じるには、最低限の自然科学的知識と経済構造の把握が必要だ。そして、現代社会であらゆる問題を引き起こしているのは、何を差し置いてもマネーだということをいつ何時も忘れてはならない。

 

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

エネルギー問題入門―カリフォルニア大学バークレー校特別講義

 

 広く読まれているムラー教授の一般向け読み物。ムラー教授は日常的なものからのたとえに長けている。サイエンス読み物に属するものだが、エネルギー問題を入門的に理解したい人に。

 

エネルギーとはなにか そのエッセンスがゼロからわかる (ブルーバックス)

エネルギーとはなにか そのエッセンスがゼロからわかる (ブルーバックス)

 

  科学的知識がなければ、社会的言説に簡単に騙されてしまう。本書は中学レベルの説明から始まるのでほんとうにゼロからわかる。新書ということもあってトピックが細かく分かれているので、あいている時間にさらりと読もう。

 

万物を駆動する四つの法則―科学の基本、熱力学を究める

万物を駆動する四つの法則―科学の基本、熱力学を究める

 

 理論的に「エネルギー」概念を根本から理解したい人に。さらりとは読めないが、丁寧に解説されているのできちんと論理を追っていけば確かな基礎的知識が得られる。体系的に理解できれば、根本的な問題点を見抜きやすくなる。

 

石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 (文春新書)

石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 (文春新書)

 

  商社の現場で「石油」に関わり続けてきた著者による「エネルギー情報学」の入門書。エネルギー問題は政治問題であり、誰がどんな本を出しているかも含め、さまざまな当事者の視点を踏まえて事実を追う必要がある。

 

「水素社会」はなぜ問題か――究極のエネルギーの現実 (岩波ブックレット)

「水素社会」はなぜ問題か――究極のエネルギーの現実 (岩波ブックレット)

 

  「水素社会」の推進がまったくのビジネスの論理だということは、それほど深い知識がなくてもふつうに考えればわかることである。そしてさらに思考を進めると、政府の「水素社会推進」が「原発社会の維持」とワンセットであることがわかる。


© 2015 ネコナガ (id:nekonaga)
Amazon.co.jpアソシエイト