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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

『お盆のはなし』蒲池勢至─お盆は仏教とは関係がないか

 夏が来たので、蒲池勢至『お盆のはなし』を読む。著者は住職(真宗大谷派)であり研究員である。「お盆」については、なんとなく親しんでいながらよく知らないという人は多いのではないだろうか。もっとも風習とはそういうものだが、気になり始めると気になるものだ。

 

 「お盆」は日本における行事だが、今では夏の風物詩のようになっている。お盆が終われば夏も終わる、といった具合だ。そして、夏祭りといえば「盆踊り」である。もっとも今でも地域による違いはあり、内容はもちろん、日付にもずれがある。大まかに東日本は七月盆、西日本は八月盆である。

 これは旧暦と新暦の違いに由来するものだが、日付という意味では、元来お盆は「七月十五日」に行うものであった。ところが旧暦と新暦ではだいたい一か月ずれるから(旧暦の明治5年12月3日が新暦の明治6年1月1日である)、切り替えた際に「月遅れ」ということで八月盆が始まる。つまりは日付だけを保持した方と、もともとの時期を保持した方の違いである。

 ところで七月というと、旧暦では一月から三か月ごとに季節を分けるから、七月は「秋」にあたる。つまり、「お盆」はもともと初秋の行事なのだ。そして月の満ち欠けにもとづく旧暦では、七月十五日は毎年「満月」のころである。つまり、満月の明かりの元で行うのが「盆踊り」だったということだ。

 

 さて、気になるのは「お盆」と仏教の関係であろう。一般にお盆は「仏教行事」だと思われている。何しろ坊さんが家々をかけまわるのがお盆である。しかし、もともとの仏教に「先祖を敬う」とか「死者がかえってくる」という発想はないから、これは中国か日本でできたものということになる。

 幸いなことに、実は典拠となる『盂蘭盆経』というお経がある。しかし仏教かといえば、これには「考」の思想が大々的に入り込んでいて、中国で作られた「偽経」だということがわかっている。つまり何なのかは微妙なところだが、ともかくこれが日本に入ってきたのである。しかし、入ってくれば勝手に根付くというものではないから、これは歴史をみる必要がある。

 

 ちなみに、「盂蘭盆」というのはサンスクリット語の「ウラバンナ」を音写したもので、日本ではそこから「盆」となったとされている(ただし元の「ウラバンナ」の意味ははっきりしていない)。だから「盆」が「ウラボン」である。これは一般に七月(八月)十五日前後の期間を指す。

 ところが、今では八月二十四日を「ウラボン」と呼んで、十五日前後を「表盆」と呼ぶ地域もある。これはおそらく、「盆」という名称が定着してから「ウラボン」の「ウラ」を「裏」と解釈したことに始まるのだろう。むかし真言宗の坊さんが「盆がウラボンです」と力説していたのを思い出す。

 

 話は戻るが、本書でおもしろいのはお盆の起源説である。著者は柳田国男の説をとりあげている。柳田によれば、お盆は日本にもともとあった風習に由来しているという。まず、「ウラバンナ」が「ボン」に転訛したというのにそもそも無理がある。そして、「盆」は中世以前は「瓫」と書かれており、「ボン」とは読まれていない。

 そこで「瓫」とは何かと言えば、日本では古くから食物を入れて神霊に供える祭りがあり、その際の器の名前であるという。そして、「瓫」はそもそも「ホトキ」と読まれており、これが「ホトケ」に転じたというのだ。柳田節全開なので要追究だが、要するに仏教は後付けで、すべてはもともとあったというのだ。

 これについて本書では、有賀喜左衛門の反論が紹介されている。有賀は「イエ・ムラ理論」が有名な農村社会学者だが、「ホトケ」が「ホトキ」から転訛したものだとする柳田説に対して、「ホトケ」という言葉が奈良時代中期には少なくとも成立しているとしてこれを反証している。もっとも、「盆」の名称については柳田説に賛成だという。

 ということで本書では、いずれにしても、もともとあった風習と仏教的要素がゆるやかに混ざったところに現在の形での盆行事が成立したとしている。つまり、「民俗の仏教化」と「仏教の民俗化」が同時におこったということだ。もっとも、七月に先祖供養をする風習があった一方で、偶然にも『盂蘭盆経』には「七月十五日」とあるのがおもしろいところだ。

 

 本書では各地の風習も紹介されているが、まことに民俗というのはいろいろあるものだと思わせられる。もっとも、「日本にはいろいろある」というのは間違いで、もともといろいろ異なっていた地域をひとまとめに「日本」と認識するようになった方が最近のことだ。そこで、こういう近代的なセンスによってないがしろにされ始めていた「いろいろ」の方に目を向けたのが柳田の功績だということで、一応柳田をフォローしておこう。

 

お盆のはなし

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先祖の話 (角川ソフィア文庫)

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