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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

「現生人類の手、チンパンジーより未発達か」─人類は進化しているのか

科学のニュースから

 

  現生人類の手がチンパンジーより未発達な可能性が高いという研究が『ネイチャー』誌に出たらしい。先にこれまでの定説を簡単にまとめると次の通りだ。

 

  • 人類とチンパンジーやオランウータンは数百万年前に共通の祖先から分かれた
  • その後、人類は「手先の器用さ」が選択されて親指が長くなった
  • 一方でチンパンジーやオランウータンは「樹上での移動のしやすさ」が選択されてその他の指が長くなった

 

 そして、この「共通の祖先」の手は現生チンパンジーに似たものだと考えられていた。しかし今回の研究によると、実際はどうも現生人類に似たものであるようだ。つまり、われわれの手はチンパンジーと分かれて以来ほとんど進化していない可能性が高いのである。

 ということで、「チンパンジーのような手」から「人類の手」への進化を想定していたそれまでの進化モデルは、はじめから成立しない可能性が高いという。人類はもともと「チンパンジーのような手」の段階など経ていなかったということだ。

 

 さてそれなら、少なくとも現生の人類とチンパンジーを比べると、「手」においては「チンパンジーの方が進化している」と言えそうだ。一方で人類はといえば、かわりに「脳」の方を進化させたのはご存じの通りである。したがって今回の研究結果は、人類が一般に「ネオテニー」(幼形成熟)と呼ばれる性質を持つことと符合するといえるだろう。

 

 詳しくはたとえばスティーブン・ジェイ・グールド『ダーウィン以来―進化論への招待』など読んでいただきたいが、簡単に言えば、人類の個体は「生まれてくる段階」ではあまり成熟していないのである。たとえば他の哺乳動物では、お腹から出た段階ですでにそれなりの自活能力を持っている。

 反対に、人類の赤ん坊を自然の中に放置しておくと、すぐに死んでしまいそうなことは想像に難くないだろう。つまり、人間の個体はもともと(お腹の中だけでなく)「生まれたあとに十分に育てられる」ことを前提に生まれてくるのである。人間は、本来的に社会的な動物なのだ。

 

 どうしてこんなことをやっているかというと、それこそが、人類が「脳」で生き残ってきた所以だ。人類が飛びぬけて脳を発達させていることはご存じの通りだが、脳の成長はかなりの時間をかけてゆっくりやる必要があるのである。

 なぜかというと、そうすることで臨機応変に、つまり生まれた環境に合わせて柔軟に「成長し分けられる」からである。これは、大型動物のうち、人類だけがほぼ世界中に生息できている理由である。

 

 ちなみに、「脳」の進化はおよそ1万年前に止まっていると考えられている。これについては、実は人類が「難産」という概念を持つことに関係している。人類は、二足歩行になったせいで母親の脊柱が変に曲がったうえに、胎児の脳が肥大化したせいで、他の哺乳動物と比べて出産時の困難がはるかに大きいのである。

 だから人類の脳の大きさは、総計して人類が滅亡しないようなギリギリのラインに規定されているといえる(突然変異で脳が肥大化しても、その個体は生れ出てこないので遺伝子を残せない)。したがって女性の骨の形質に大きな変化がない限り、人類の脳はこれ以上大きくならないとされている(これついては奈良貴史『ヒトはなぜ難産なのか――お産からみる人類進化』がおもしろい)。

 

 それなら、人類の進化はもう止まっているのか。否、ここまではあくまでも物理的な空間での話である。実は人類の進化は、すでに他の空間に移行している。それは、他でもない「脳が生み出している空間」である。

 人類はつまり、「どんな脳を持っているか」ではなく、「持っている脳をいかにうまく使うか」ということをやっているわけである。物理的な生まれには差はないから、持っている脳をいかにうまく使うかに磨きをかけるしかない。その意味で「創造性」は、実は人類が滅亡しないために必要なのである。

 

ダーウィン以来―進化論への招待 (ハヤカワ文庫NF)

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ヒトはなぜ難産なのか――お産からみる人類進化 (岩波科学ライブラリー)

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