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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

人類にとって火とは何か─「火の使用」が人類史にもたらしたもの

人間・自然・社会

 消防車がすごいスピードで走り去ってゆくのを見かけてふと、人類と火のかかわりの長い歴史を思い描いてみる。

 

 「火」そのものは言うまでもなく自然現象だが、「火の使用」はしばしば人類最大の発明とも言われる。要するに「いかに利用するか」ということに磨きをかけてきたわけだが、高層ビルが立ち並ぶ大都会でも火事が起こることを考えれば、火がどこまでも自然現象だということを実感する。

 もちろん高層ビルも素材は自然からとってきたものだから、言ってしまえば大都会とて自然風景に変わりはないのだが、いわゆる「人工物」に囲まれている中では火の「自然らしさ」は際立つものだ。炎のゆらぎは「1/fゆらぎ」と呼ばれているものの一つだが、ある意味で自然の象徴でもある。

 

 火事ということで言えば、マイケル・ラルゴ『図説 死因百科』をみると、つい最近まで都市で火事が起これば100人単位で人が死ぬのも普通だったことがわかる。これは建築段階で配慮がなかったこともあるが、そもそも「消火ホース」の原型が誕生したのが17世紀後半だそうだ。

 そう考えると日本では、伝統的にそんなに背の高い建物を作らなかったし、江戸時代に草の根の火消し技術がとても発達していたことには目を見張るものがある。地域によっては今でもカチカチ火の用心をやっていて、どことなく文化の重みを感じさせるだろう。

 ちなみに知り合いの坊さんに聞いた話では、寺の境内にイチョウの木がよく植えてあるのは、イチョウの木は燃えづらく、万が一寺が燃えても延焼を防ぐためだそうだ。そういえば本能寺は名前の中に「ヒ」があるからよく燃えるのだということで「本䏻寺」になった。

 

 人類が火を使い始めた時期には諸説あるが、そもそも人類がアフリカを出るためにも火は欠かせなかったと考えられている。なぜなら、寒い地域では暖をとる必要があるからだ。火の使用がなかったら、そもそも人類はアフリカにとどまっていたかもしれない。

 もちろん、火は「明かり」にもなれば、獣・虫よけにもなり、団らんの拠点にもなる。照明があれば夜間の活動も可能になるし、害のある生物を遠ざければそれだけ他のことに集中できる。団らんの拠点ということで言えば、コミュニケーション(言語)や共同体の発達にも寄与しているだろう。

 その後の長い歴史をみてみても、武器や道具を作るのに火を使った加工は重要だったし、もっと最近で言えばレンガでの家づくりもある。あるいは6000年前とかにシュメール人が書いた文字が残っているのも、文字を刻んだ粘土を焼いて固めていたからだ。

 

 しかし、人類にとっての火の使用といえば、何といっても重要なのは「調理」が発生したことだろう。これによってタンパク質や炭水化物の摂取量が増えて、人類の食事はいわゆる「栄養豊富」になった。さらに「消化」が簡素化されたこともとても重要だ。

 有名なのはリチャード・ランガム博士の「digestion theory」(消化理論)というものだが(邦訳は『火の賜物―ヒトは料理で進化した』)、食べる前に食物をやわらかくしておくことで体内での消化が容易になり、おかげで人類はこれほど脳が発達したという。

 要するに消化作業のアウトソーシングだが、脳は今では身体全体の20%のエネルギーをくっているから、栄養が増したうえに消化に使うエネルギーや時間が節約されれば、脳の成長も運用も促進されたというわけだ。

 もっともこういう分析はいつも「卵が先か鶏が先か」であるから、「おかげで人になった」というのは言いすぎだという向きもあるが、ともかく火の使用がいろいろな面で「人類らしさ」に寄与していることは間違いがない。

 

 ジョン・ファーンドンの『The World's Greatest Idea: The Fifty Greatest Ideas That Have Changed Humanity』では、人類史における偉大な発明の読者投票で「火の使用」は5位になっている。それより上は4位から1位にかけて音楽、避妊、書字、そしてインターネットだ。

 もっとも、音楽がコミュニケーションや文化、避妊が人口抑制(飢餓抑制)、書字が記録や伝達、インターネットが広範囲での情報伝達に寄与しているのは確かだとしても、もしも火の使用が人類の「脳」に大きく影響しているとしたら、この順位は考えものだろう。

 というのも、火の使用なくして脳の増大がなかったとすれば、これらはいずれも発生しなかった可能性が高いからだ。その意味ではやはり「火の使用」は人類最大の発明と言われてしかるべきだろう。最初に戻るが、火事には気をつけたいものだ。

 

図説 死因百科

図説 死因百科

  • 作者: マイケル・ラルゴ,橘明美(監訳),臼井美子,荷見明子,坂田雪子,竹若理衣,長谷川由布子,吉川綾香
  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2012/06/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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火の賜物―ヒトは料理で進化した

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The World's Greatest Idea: The Fifty Greatest Ideas That Have Changed Humanity

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