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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

透明人間は実現しているのか─透明化技術の類型

科学のニュースから

 

 「透明人間」は実現しているのだろうか。

 これに答えるためには、何をもって「透明人間」というのかがはっきりしている必要がある。というのも、「透明人間」と呼べそうなものを実現する理論的な方法はいくつもあるからだ。実現しているものもあれば、物理法則が変わらない限り難しそうなものもある。

 ただ、人間を見えなくなればいいのなら、すでに現実化していると言えそうだ。上のニュースでは、人間が透明に見える技術をアメリカ軍がもうすぐ実用化することを紹介している。ほとんどすべてのテクノロジーが軍事技術としてはじまるのはよく知られていることだが、今回のものは迷彩の一種として登場したものだ。最初のプロトタイプが1年半以内にテストされるそう。

 

 よく読まれたミチオ・カク教授の『サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か』(2008)では、「不可視化」は最も近い将来に現実化しそうな「不可能レベルI」として分類されていた。ちなみに「テレポーテーション」や「テレパシー」もここに分類されていたが、テレポーテーションもかなり微小なサイズではすでに確認されている。

 

 カク教授の本を参考にしながら、透明人間の類型について簡単にまとめておきたい。

 

 「透明人間」についてのもっともシンプルな考えは、実際に人間そのものが透明になって光を透過させるようになることだろう。しかし、気体や液体と違って物質が固体の場合、これはとても難しい。多くの固体の「向こう側」が見えないのは、固体は気体や液体に比べてそれを構成している分子同士の間隔が狭く、可視光を通さないからだ。

 もちろん、ガラスのように「透明」な固体もあるが(ガラスは液体か固体か微妙な存在だったが、今年に入って京都大学のチームが固体である証拠を発見した)、これを実現するためには、思い切り高温にしたあと一気に冷やさねばならない。カク教授の言葉を引用すれば、人間を透明にするには、「身体を液化し、沸騰させて蒸気にしてから結晶化し、さらに過熱したのちに冷やさなくてはならない」(p.46)。

 

 これが現実的に人間に対して行えないことは明らかだ。ということで、人間そのものを透明にするのは今のところ難しそうである。そこで次に、それそのものを見えなくするのではなく、ある種のバッファを設けて「相手にとって見えなくなる」ように工夫するという方法がある。いちばん知られているものはステルス技術だ。

 ステルス技術では、物体そのものが「相手からすれば」ある程度みえなくなる。ただし、原始的な方法では、近づいて見るとはっきり見えてしまう。たとえばステルス戦闘機は、レーダーからは捉えづらいが、肉眼でははっきり見える。これは、素材を工夫してレーダービームを散乱させることで、発信者のところに戻らなくさせているだけだからだ。つまりかなり局所的なものである。

 

 かわって、「メタマテリアル」というものが出てきた。これは光の屈折を利用したものだ。つまり、素材物質の中に、通常とは異なる形で電磁波を屈折させるような構造体をうめこむことで見えなくする。ものが見えるのは光源から出た光がものに反射して網膜に届くからで、その間に光を曲げてしまえば、ものは通常通りには見えなくなる。

 つまり、物体を迂回するように光を屈折させてしまえば、人間はそこに何かがあることを感じることができなくなるというわけだ(視覚においては)。これは最初マイクロ波だけで可能だったが、徐々に可視光領域についても可能になってきているそうである(その後2015年までの7年でどう進化しているのか私はよく知らないが、まだ実験室を出ていないようだ)。

 

 ところが今回報じられている光学迷彩の一種はまた別のメカニズムによっているようだ。これはある意味で発想としてはメタマテリアルより原始的だ。つまり、前方にスクリーンを作って、自分がそこにいなければ映るであろう後方の背景をホログラムでそのまま映すというものだ。忍者などは布に背景を描いて隠れていたが(たぶん、本当はそんなことはやっていなかったと思うけど)、あれのデジタルバージョンだと思えばいいだろう。

 いずれにしても、とりあえずこういう形では実用化されるということだ。カク教授によれば、東京大学の川上教授は「滑走路でパイロットが操縦室のフロア越しに下を見るのに使える」(p.60)と言っていたそうだが、もっと普及すれば、普通の自家用車でも事故を減らすために使えそうである。そこまでいくと逆に混乱しそうでもあるが、数十年後の人類にとってどんな認知がふつうになっているかは定かではない。

 

 ちなみに、カク教授によればH.G.ウェルズの『透明人間』においては、「もっと高度な不可視化の方法」があるらしい。それは時空の四次元目を使う方法だということだが、確かに論理的には説明可能な方法だ。つまり、二次元のアリから三次元の人間の姿が見えないように、四次元に消えてしまえば三次元からは見えないということだ。

 

 一応、理論物理学での最先端である超弦理論が成り立つためには、最低でもこの宇宙に十一次元(空間10次元+時間1次元)が必要であるとされている。これはあくまでもミクロな世界の話だが、われわれがふれているマクロな世界にもより多くの次元が存在しているとしたら、いわゆる「宇宙人」というのはわれわれの四次元(空間3次元+時間1次元)に見える形では現れないのではないだろうか。

 何しろ惑星間を移動できるほどのテクノロジーを持っているのだし。

 

サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か

サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か

 

  今読んでもまだおもしろい本。カク教授は世界的に知られる理論物理学者であると同時に(その延長で)未来学者でもあり、どことなくうさんくさい感じがクセになるかもしれない。ともかくおもしろい。

 

透明人間

透明人間

 

  『透明人間』はまだ読んだことがなかったので、この機会に読んでみようと思ったら、キンドルに無料であった。古い訳なのでちょっと文体は気になるが、キンドルは5秒後には読み始められるのでこういう時に便利である。


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