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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

人種偏見を緩和するには─人間の認知と社会的な「人種」の概念

 サイエンティフィックアメリカンにこんな記事があった。

 

 

 タイトルは「人種バイアスの可変性」とでもなるだろうか。繰り返し登場するテーマだが、依然として黒人にすぐに発砲する白人警官のニュースが散見される中、こうした知識はいくら強調してもしすぎることはないだろう。日本では人種問題については遠いイメージがあるかもしれないが、もちろんこれはあらゆる差別に通底する構造である。

 

 「人種」が自然科学的概念でないこと、つまり人種の区別に生物学的根拠がないことは、1970年代以降、多くの研究によって科学の分野では既成事実となっている。しかし、一般的にはまだまだ、「民族」が社会的区別、「人種」が科学的区別だという先入観は根強い。実際には、人種もまったくの社会的区別なのだ。

 

 記事では心理学の観点から、われわれが誰かに会うとすぐに(ほとんど無意識に)「人種」を判別してしまう傾向が「本能的」なものではないことが紹介されている。

 今ではfMRIで脳内の血流変化をリアルタイムで見ることができるため、神経科学的には実際に「人種」を判定している最中の人物は扁桃体(機能的には辺縁系の一部で、恐怖を強めたり弱めたりする)の発火に違いがあることが確認されているのだが、しかし、その判断自体は社会的に獲得した認識パターンに根差しているということだ。

 社会的に獲得した認識パターンだということは、たとえば大のコーヒー嫌いだった人がコーヒー好きに変化することがあるのと同じメカニズムで、あとから変えられるということである。つまり、人種偏見がどんなに強い人でも、そのバイアスは努力すれば変えられるのである。

 

 もともと、人間は知らない誰かに出会った時、3つの事をほとんど不可避的に即座に判定するとされていた。一つは年齢(age)、次に性(sexとされる場合とgenderとされる場合両方ある)、そして人種(race)である。しかし、ここで「人種」は言わば「敵か味方か」を判断するためのもので、それなら、「より強い味方要素」が何かしらあれば、そちらが優先されるのである。

 これについて記事では共和党/民主党の区別があげられているが、要するに共和党の白人は、民主党の白人よりも共和党の黒人の方を「味方」だとみなすのである。つまり、より強い「連合」要素があれば人種バイアスは簡単にしりぞけられるということだ。人種判定はより本能的な「敵/味方」判定のいちバージョンに過ぎないのである。

 これは実際に心理学でも確かめられていて、記事には書いてないが、こうした実験を最初にやったのは進化心理学の創設者ともいわれる人類学者のジョン・トゥービーと心理学者のレダ・コスミデス夫妻である。人間の性質は、心の領域も含めて「進化的適応」の観点から説明可能だと考える進化心理学の観点からすれば、「人種」の区別が本能的だというのは説得力に欠けていたということだろう。

 もっとも、「敵/味方」判定については本能的なものであるかもしれないことは確かだが、これは「どっちかに決めなければならない」というだけで、それなら全部よい方に変えればいいではないか。

 

 ちなみに、たまたま読んでいた瀬谷ルミ子氏の『職業は武装解除』には、アフガニスタン戦争後の武装解除の現場で、アメリカ人の国連職員の「自分の国籍を堂々と言えない」という悩みが紹介されていた。というのも、現地の人々からすれば「アメリカ人」というのは空爆を行った張本人で、この職員本人はそれに反対しているのだが、やっぱり「あの、アメリカ人」とみなされてしまうからだ。

 この場合は人種ではなく国籍だが、メカニズムは同じだ。こうした「敵/味方」の判断は危機状態にあるほど強まるから、紛争地域でこうなるのはある意味で仕方がないとも言えるが、このあたりがバイアスをなくすのが難しい理由だろう。瀬谷氏も、あらゆる介入に際して「和解」を目指させる姿勢は的外れであり、ひとまずは当事者が望んでいる「棲み分け」を確保することが重要だと述べている。

 

 さて、もっとも記事ではこうした対立一般についての処方箋も紹介されていた。端的に言えば、一つの戦略は、「ゴールを共有すること」である。これはとてもわかりやすい言い方だ。そもそも人間が集団をつくるのは共通の目的に向けて相乗効果を高めるためで、それなら共通のゴールが置かれる次元が高ければ高いほど、連合も大きくなるだろう。

 もっとも、いきなり「世界平和」といっても世界中の誰もが臨場感を持つわけではないので難しいが、よく、宇宙人が攻めてきてはじめて世界平和=人類の結束が実現されると言われる。そういうSF映画もたくさんあるが、しかし、すでに想像できるなら別に宇宙人が攻めてこなくても現実に可能だということだ。

 結果的に自らの理論が原爆開発につながってしまったアインシュタインは平和活動にも積極的だったが、そのアインシュタインも、想像はこれから起こるすべてのことがらの予兆だと言っているではないか。現実は簡単には変わらないかもしれないが、だからといって何もしないわけにはいかないのである。

 

職業は武装解除 (朝日文庫)

職業は武装解除 (朝日文庫)

 

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