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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

「統合失調症」とは何か─問題はそれを発症することではない

 岡田尊司著『統合失調症』(2010年刊)を読んだ。端的に言っていい本であった。近年はこうした良質な新書はどんどん数が減っているが、本書は統合失調症理解についての入門書として広くおすすめできる。

 多くの本を読む人にとっても、統合失調症に限らず精神疾患を扱った本は、特別な理由がない限りあまり読まれないであろう。しかし、本書によれば統合失調症を持つ人は100人に1人と決して珍しいものではなく、あるいは自覚していないだけの人も大勢いると想定されるから、実感としては疎遠でも大人の教養として無視できない分野である。

 

 近年では精力的に執筆活動に取り組む精神科医も少なくないが、著者はあくまでも治療行為の延長として執筆を行っているというスタンスのようである。本書では自らの専門である精神医学そのものを批判的に検証しつつ、「統合失調症」について実例と理論をバランスよくあげながら、症状や認知、歴史的背景、社会との関係などが順を追って平易に解説されている。

 精神科医の書いた本が読みづらいのはおそらく、もっぱら抽象概念を扱わざるを得ないからで、精神医学、精神分析、神経科学、心理学等の専門用語が続々と登場してわけがわからなくなってしまうのだが、著者の文章は違和感なく読み進めることができる。よく知られているように、各分野で「天才」と呼ばれている人物には精神疾患を患っている人も少なくないが、そのあたりの話題の出し方もほどよい。

 

 そもそも統合失調症とは、幻聴や妄想、無気力、自我障害(自己とそれ以外の境界があいまいになる)などの症状がみられる疾患で、たとえば、自分が「すべての人の苦しみを背負っている」とか「英雄である」といった感覚を本気で体感する。病名から誤解されがちであるが、統合失調症とは統合機能を失っている状態ではなく、ふつうは結びつけないような様々な物事が結びつき、言わば「統合しすぎている」状態なのである。

 多くの場合は、「完治」という概念が成立しづらく、発症する際も突然起こるというよりはゆるやかに進行していたものが言わば「発見」されるものである。発症には遺伝的要因も環境的要因もかかわるが、基本的には人間の性質に根差したものであるため、何か特異なことが起こるというよりは、誰もが持つ性質が極端に偏った場合に認められると言える。

 したがって判定には明らかに当該社会の持つ価値観や構造が反映されるのだが、そもそも精神疾患が理解されづらいのは、まさに理解されづらい言動をもつ者が「精神疾患をもつ者」として認定されてきた歴史があるからである。つまり、精神疾患の種類や患者が増えているのは、社会的な価値観の歪みを如実にあらわしているとも言えるのである。これを「個人」のレベルで理解しようとするから、「わけがわからない」ことになる。

 

 およそあらゆる病気について、その概念が社会的に認定されることは事実である。時代や地域によって何が病気とみなされるかも異なれば、その治し方も異なる。今では医療人類学という分野があるが、本書ではその分野のパイオニアの一人であるベンジャミン・ポールの記録から、グアテマラのシャーマンの例が挙げられている。

 ある女性は、突飛な言動で周囲の人々から疎んじられているとともに幻覚を覚えていた。それが西洋の精神医学で言う統合失調症かは定かではないが、何らかの精神疾患を患っていた可能性はかなり高い。シャーマンは「彼女の身内の者たちが正しくない行動をしたため超自然的な力が封印を解かれてしまい、彼女を苛むようになった」と診断したが、祈祷を行い、「身内の者すべてが積極的に関与すること」を求めた。その結果、それにしたがうと一週間後には治ってしまったのである。

 著者によれば、ここでのポイントは「起きていることは本人のせいではない」という視点を共有させ、周囲の人間に「積極的な関与」を求めていることである。これにより、本人の心理的な回復とともに、社会的にも「再統合」という形で言わば関係性が回復される。つまりここでの病気は個人の問題というよりまったく「社会的」なものなのである。およそ精神疾患についてはほとんどが社会的な病であると言えるであろう。もっとも治し方については、ここでは「シャーマンに助けを求める」という行為態度が社会的に共有されていることが前提とされる。

 逆に言えば、シャーマンであろうが医師であろうが、関与する者すべてが心から信じれば治すのは難しくなく、大きな問題とはならないのだが、本気で信じる何かを失いがちな社会、「患者」が社会的に「排除」されがちな社会では、精神疾患は発症しやすい上に治りづらいということになる。そこでは明らかに、社会が無関心だからこそ「病気」が増え続けるという負のフィードバックがはたらいているのである。

 

統合失調症 (PHP新書)

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統合失調症 その新たなる真実 (PHP新書)

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