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フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

『身体巡礼 ドイツ・オーストリア・チェコ編』養老孟司─誰も考えないことを考える

書評と本の紹介

 養老孟司著『身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編』を読んだ。

 著者の本は一時期まではかなり読んでいたのだが、いつしか読まなくなっていた。新潮社が2003年に新書レーベルを立ち上げた時に出した『バカの壁』がベストセラーになって以来、各社が飛びついて、単調な社会批評みたいな本ばかり出るようになっていたからである。

 論者としての著者の主張は『唯脳論』で充分だと思うが、著者の文章は、専門の解剖学と趣味の虫とり、そして個人的な興味の文化論が合わさった時の、なんだかよくわからないものがいちばんおもしろい。つまり著者の本領が発揮されるのはエッセイである。

 この本は、著者が個人的に計画していたウィーンへの旅に新潮社がのっかり、取材の体裁を整えて雑誌に掲載していたのをまとめたもので、結果的にメインは死人めぐり、墓場ツアーになっている。しかし、本人も書いているように取材記者としては失格である。以下引用。

 

 …その日の午後にセドレツについたときは、もう草臥れて(くたびれて)いたのだと思う。だからせっかくの歴史の話がわからなかったのである。聖バルボラ大聖堂を出たときにはもう夕暮れで、大聖堂からの眺めがじつにいい。でも地理がわからないから、見ているものがなにか、さっぱりわからない。だからまた二次情報になって、いい景色だとしか、いいようがないのである。大聖堂の中はもう薄暗くなっていて、鉱夫の格好をした像があったことしか、記憶に残っていない。機会があったら、再訪するしかない。(引用おわり)

 

 終始、上のような調子だから、取材としては成り立っていない。 しかし、その気の抜け具合と、御老人がぶつぶつ言っているのを覗き見られるのが、妙におもしろい。新潮社もそのあたりをわかって企画を出しているのであろう。もっとも、70枚のフルカラー写真のおかげで臨場感はかなり高い。

 一方で、「ヨーロッパの心臓信仰とは何か」「ユダヤ人の墓はなぜやたらにあるのか」といったことになると俄然、話が進む。こと骨や埋葬の話になると、門外漢にはなかなか縁がないマニアックな本が参照され、ふつうは結びつかないものが結びついて、著者流の文化論がとび出てくる。このあたりに私はどうも、惹きつけられるのである。

 

 今回数年ぶりに著者の本を読んで、著者の「変」なところに磨きがかかり、文体も少し変わっていたのを感じた。また、私の勝手なイメージかもしれないが、そういうものには縁がなさそうな著者が突然グーグルだとかキンドルだとか言い始めていたのに時の流れを感じた。

 これを機に少し期待しながら近年の著者の本もチェックしてみたが、残念ながらとくに惹きつけられるものは見当たらなかった。その意味でやはり本書はあたりであろう。思えば、誰からみても誰も考えないようなことを考えているところが、著者が多くの人にうけた原因かもしれない。

 

 ちなみにこの本は、何度か見かけていたものの手に取ることもしなかったのを、ふらりと教会に行ってみた時に近くのキリスト教書店にあったのを買ってみたものである。いつもと違う書店に行くと、自分がいつもと違う行動をするのがおもしろい。

 

身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編

身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編

 
身体巡礼―ドイツ・オーストリア・チェコ編―

身体巡礼―ドイツ・オーストリア・チェコ編―

 

 


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