フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

書評と本の紹介

「共感」はそんなに重要か─Paul Bloom『Against Empathy』

ポール・ブルーム『Against Empathy: The Case for Rational Compassion』を読む。邦訳されていないが(たぶんされるはず)、非常にいい本だったので紹介したい。 一言でいえば道徳に関する実践的な一冊だが(私は道徳という言葉を倫理という意味で使いたく…

『量子物理学の発見─ヒッグス粒子の先までの物語』レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル

レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル『量子物理学の発見 ヒッグス粒子の先までの物語』を読む。 両著者ともに一般向け科学啓蒙書を著している物理学者で(レーダーマンは実験物理学者、ヒルは理論物理学者)、このコンビは『詩人のための量子力学―レ…

岸由二・柳瀬博一『「奇跡の自然」の守りかた』─「自然保護」とは何か

「奇跡の自然」の守りかた: 三浦半島・小網代の谷から (ちくまプリマー新書) 作者: 岸由二,柳瀬博一 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2016/05/09 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る ドーキンス『利己的な遺伝子』やE.O.ウィルソン『人間の本性に…

『文明を変えた植物たち─コロンブスが遺した種子』酒井伸雄

酒井伸雄『文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子』を読む。 周知の事実だが、現代のわれわれにとって身近な植物の中には、アメリカ大陸原産のものが決して少なくない数ある。これが何を意味しているかというと、それらはいずれも、大航海時代にヨー…

ヒトの脳という見えないフィルター─マーク・チャンギージー『ひとの目、驚異の進化』『<脳と文明>の暗号』

理論神経生物学者、マーク・チャンギージーの研究をご存じだろうか。いつかふれようと思って機会を逃していたのだが、ここで簡単に紹介しておくことにしたい。 チャンギージーの著作で邦訳されているのは『ひとの目、驚異の進化: 4つの凄い視覚能力があるわ…

『イースター島を行く─モアイの謎と未踏の聖地』野村哲也─中公新書カラー版の魅力

野村哲也『カラー版 イースター島を行く―モアイの謎と未踏の聖地 (中公新書)』を読む。読むというか、基本的に「見る」本である。だからカラー版。しかし、新書だから1000円で買えるのが売りである。写真集は、もちろん写真家からすれば「これがいい」という…

川端幹人『タブーの正体!:マスコミが「あのこと」に触れない理由』─そもそも「タブー」とは何か

川端幹人『タブーの正体!: マスコミが「あのこと」に触れない理由 (ちくま新書)』を読む。かなり売れた4年前の本だが、今読んでも色あせていない。著者はかつての『噂の眞相』の副編集長である。 タブーを扱った本は少なくない。しかし、そもそもタブーとは…

デズモンド・モリス『サル─その歴史・文化・生態』─ヒトとサルの奇妙な関係

デズモンド・モリス『サル:その歴史・文化・生態』を読む。必要あって昨年末から読書テーマの一つがサル学なのでその延長で読んだが、そういえば今年は申年であった。新年はゲン担ぎで猿股が売れているとかなんとかいう話だが(違うかもしれない)、私として…

『世界史を変えた薬』佐藤健太郎─薬と医学と人々、それぞれの歴史

佐藤健太郎『世界史を変えた薬』を読む。医学系の新書では珍しいスタイルだが、おもしろい読み物となっている。 まえがきに「歴史にifは禁物である」という言葉が引かれている。一般にこれは戒める意味で使われるが、実際は歴史家でもなければ、ifを交えた思…

『森田療法』岩井寛─神経質は「あるがまま」と「目的志向」で治せる

岩井寛『森田療法』を読む。講談社現代新書のロングセラーの一つだが、森田正馬が創唱した「森田療法」についての平易な入門書である。 森田療法とは、もともと「神経質」に悩む人のために考案されたもので、体験治療に基づく日本発の代表的な精神療法の一つ…

ノーム・チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』─本人による入門講義

ノーム・チョムスキー『我々はどのような生き物なのか』を読む。副題は「ソフィア・レクチャーズ」だが、去年3月に上智大学で行われた講演を書き起こしてまとめたものだ。しかし、二日間にわたる講演の全文(質疑応答含む)のみならず、講演直前に行われた…

小室直樹『日本国憲法の問題点』─第九条の議論の前に

少し前に小室直樹氏について紹介したが、久しぶりに氏の著作を次々と読んでいると「今こそ、広めておくべきだ」と思う本がたくさんあった。だから、昨今の状況に引きつけながら、これからいくつか取り上げていくことにしたい。今回は『日本国憲法の問題点』…

『イスラーム基礎講座』渥美堅持─アラブ・イスラーム情勢をきちんと理解したい人に

渥美堅持『イスラーム基礎講座』を読む。平積みしてあったので買ってみたものだ。著者の本を読むのは今回が初めてだったが、ですます調ながらハードボイルド小説のような雰囲気で、淡々と描かれるイスラーム世界がどこか新鮮だ。 本書の特徴は、タイトル通り…

小室直樹『日本人のためのイスラム原論』─今こそ内在的論理をつかむべし

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」 久しぶりに本の紹介でもしようと思ったら、(今までちっとも気にしたことがなかったが)「今週のお題」なるものが「人生に影響を与えた1冊」ということであるので、大きな影響を受けた小室直樹氏の著作から「今読むべき…

『元素─文明と文化の支柱』フィリップ・ボール─周期表だけではない元素の世界

フィリップ・ボール著『元素』(丸善)を読む。 「なんてストレートなタイトルなんだ」と思われるかもしれないが、これはオクスフォード大学出版局から出ている「Very Short Introduction(VSI)」というシリーズの一冊である。これまでに350タイトルほど出…

『悩ましい翻訳語』『厄介な翻訳語』垂水雄二─「翻訳」はなぜ難しいのか

垂水雄二『悩ましい翻訳語―科学用語の由来と誤訳』『厄介な翻訳語―科学用語の迷宮をさまよう』 を読む。著者の垂水氏はさまざまな職種を経験してきたそうだが、本シリーズは「翻訳者」として書いたものである。長年の翻訳業のあいだに積もらせてきた、もろも…

『人類学の再構築』モーリス・ゴドリエ─人類学とは何か

モーリス・ゴドリエ『人類学の再構築―人間社会とはなにか―』を読む。ゴドリエは、レヴィ=ストロースにも師事したマルクス主義人類学者である。邦訳文献としては『観念と物質―思考・経済・社会』や『贈与の謎』などがある。 「人類学」というのは、謎の学問…

『お盆のはなし』蒲池勢至─お盆は仏教とは関係がないか

夏が来たので、蒲池勢至『お盆のはなし』を読む。著者は住職(真宗大谷派)であり研究員である。「お盆」については、なんとなく親しんでいながらよく知らないという人は多いのではないだろうか。もっとも風習とはそういうものだが、気になり始めると気にな…

人を動かす「フレーム理論」とは─George Lakoff『Don't Think of an Elephant!』

「フレーム理論」は、人間の認知的性質に根差したものだ。簡単に言えば、人間は場面ごとに、特定の「フレーム」をベースに物事を認識したり、特定の行動を起こしたりしている。これは、認知科学や人工知能研究のベースとなる考え方だ。 たとえば、「バスに乗…

『南方熊楠─日本人の可能性の極限』唐澤太輔─自由奔放とはなにか

唐澤太輔『南方熊楠 - 日本人の可能性の極限』を読む。 南方熊楠(1867~1941)は、つかみどころのない人物である。私ははじめ「民俗学者」として知ったのだが、民俗学一つとっても何の研究をしているのかよくわからなかった。のちに「菌類」の研究をしていた…

保守主義とはなにか─『新訳 フランス革命の省察』エドマンド・バーク

エドマンド・バーク『新訳 フランス革命の省察―「保守主義の父」かく語りき』を読む。2011年に出たものだが、当時買い逃していたのを再び見かけたので買ってみた。いわゆる「保守主義」の古典である。安保法制で安倍政権の暴走が散見される中、「保守主…

『民法はおもしろい 』池田真朗─「民法」は守る必要がない

池田真朗『民法はおもしろい』を読む。 「民法」についてとりわけて学んだことはないのだが、新書をいくつか見てよさそうなものが本書だったので読んでみた。タイトル通り、民法のおもしろさをよく伝えている本である。著者の人生は民法一筋で「民法への愛は…

『アウトサイダー』コリン・ウィルソン─人はいかに生きるべきか

コリン・ウィルソンの『アウトサイダー』を読んだ。ウィルソンという博学な作家が、「アウトサイダー」にあたる人びとをとりあげつつ、その概念を考察したものである。 ウィルソンは学者ではない。したがって本書は膨大な情報を蒐集してまとめた「論証」とい…

『図説 英語史入門』中尾俊夫─歴史を学ぶおもしろさ

中尾俊夫『図説 英語史入門』を読む。手短に本書の特徴をまとめると次のようになる。 さらりと通読するタイプの本ではなく、おそらく大学でテキストとして使われている 絵や写真、地図が多く、時代背景を視覚的にイメージできる 「tea time」と称するコラム…

『ドーキンス博士が教える「世界の秘密」』─リチャード・ドーキンスのユニークさ

リチャード・ドーキンス著『ドーキンス博士が教える「世界の秘密」』を読む。「○○博士の」という邦題は流行っているのかもしれないが、著者名の横にタイトルがあるとなんだか滑稽だ(原題は『The Magic of Reality: How we know what's really true』)。 ド…

伊藤裕『なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える』─身近な物質のはたらきを知る

伊藤裕『なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える』を読む。 多くの人にとって「ホルモン」は、理解しているようでうまく説明できない言葉である。あまり勉強したことがない人からすれば、「ホルモン焼き」の「ホルモン」と関係があるのかないのか微…

「統合失調症」とは何か─問題はそれを発症することではない

岡田尊司著『統合失調症』(2010年刊)を読んだ。端的に言っていい本であった。近年はこうした良質な新書はどんどん数が減っているが、本書は統合失調症理解についての入門書として広くおすすめできる。 多くの本を読む人にとっても、統合失調症に限らず精神…

『河鍋暁斎戯画集』と視覚文化

岩波文庫所収の『河鍋暁斎戯画集』を読んだ。読むというよりみる本である。岩波文庫では美術モノは少ないから、このように文章がほとんどない本は珍しい。 河鍋暁斎は幕末―明治の浮世絵師だが、戯画を得意とした。幕末と言えば私は芳年だが、この時期のもの…

『身体巡礼 ドイツ・オーストリア・チェコ編』養老孟司─誰も考えないことを考える

養老孟司著『身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編』を読んだ。 著者の本は一時期まではかなり読んでいたのだが、いつしか読まなくなっていた。新潮社が2003年に新書レーベルを立ち上げた時に出した『バカの壁』がベストセラーになって以来、各社が飛び…

『戦争プロパガンダ10の法則』とフレーミング

少し前に読んだ『戦争プロパガンダ10の法則』アンヌ・モレリ著について書いておきたい。 今年2月に文庫化されたものだが、このころはどうも、気になってはいたが買わずにいた本がなぜか続々と各社から文庫化されていたシーズンであった。したがって私は新刊…

『骨相学 能力人間学のアルケオロジー』平野亮─学問史における骨相学の意義

2月に刊行された平野亮『骨相学―能力人間学のアルケオロジー』を読んだ。このブログで最初に紹介する本がなんともマニアックなものになってしまったが、私はタイトルだけで惹かれた。 「マニアック」というのは、私の個人的な感想ではない。少なくとも日本で…


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