フリー哲学者ネコナガのブログ

人間にまつわること、哲学や科学、宗教、社会の問題、生き方のことなど書いています。基本的にエッセイです。

言語は認知や思考を規定するのか─「言語相対論」「言語決定論」の歴史と議論の行く末

「言語は認知や思考を規定するか」というのは、現れては否定されるということを繰り返している、言わば「ポピュラーな議論」である。この発想自体はドイツのロマン主義にはじまるものだとされているが、有名なのは「サピア=ウォーフの仮説」だろう。これは…

「ゲノム編集」で能力格差は生じるか─デザイナーベイビーは実現するのか

www.nytimes.com 近年、「ゲノム編集」が社会的に話題になり始めたが、つい先日も「ゲノム編集でヒト受精卵を修復」としてNature誌に論文が出たというニュースが流れていた。ヒトの受精卵をゲノム編集することで、心臓病の一種の原因となる遺伝的変異を取り…

「信じる」ことについて

「諦めなければ必ず~」という言い回しがある。典型的には、立場的に上の者が下の者を鼓舞したり、仲間同士で元気づけたりする際に使われるものである。もっとも、言っている張本人がすでに諦めていて、実際上は何の効力も持たないことも多い。 とは言え、効…

背表紙タイトル上下左右

文字を「どちらからどちらへ書くか」というのは、ご存知のようにそれなりのバリエーションがある。例えば古代では「牛耕式」というのも珍しくないが、つまり牛が農地を耕すように、左から右へ読んだ次の行は右から左へ読み、次の行はまた折り返して左から右…

「性淘汰」とは何か─もう一つのダーウィン進化論

ダーウィンの自然淘汰説ほど誤解されている理論はないとはよく言われることだが、もっと大きな誤解は、自然淘汰説だけで生物の進化は説明できる、ということだろう。実際は、元祖ダーウィンですらすでに自然淘汰とは別に「性淘汰」について言及しているので…

「未来予測」というものについて

tocana.jp スイス人のパウル・アマデウス・ディーナッハという人が書いた『Chronicles from the Future: The Amazing Story of Paul Amadeus Dienach』(未来からの年代記─パウル・アマデウス・ディーナッハのすごい話)という本が一部で話題になっているら…

何がグーグルではできないのか

You Still Need Your Brain - The New york Times https://www.nytimes.com/2017/05/19/opinion/sunday/you-still-need-your-brain.html?_r=0&referer=https://t.co/NohR6YqPgR?amp=1 なんだか仰々しいタイトルだが、ニューヨークタイムズのSunday Reviewに…

狂人・奇人・変人

「狂人」という言葉がある。一方、「奇人」もあれば「変人」もあるだろう。任意に選んだが、このように並べてみると、どうも「変人」というのが最も一般的である。実際、「変人」は最も一時的な状態に過ぎないようなニュアンスがある。明日になったら変人で…

「三段論法」の何が問題か

「三段論法」というものがある。最も古典的な例を挙げると、「ソクラテスは人間である」という小前提と「全ての人間は死ぬ」という大前提から、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導くというものである。三段論法にも様々あるが、ここでは専らこの型を「三段…

「固有名」とは何か─固有名に「意味」はあるのか

「固有名」とは、同じ種類の他のものと区別するために、ある特定のものにつけられた名前である。例えば「ドナルド・トランプ」と言えば、彼が属する「人間」というものの中から彼のみを指示することができる。もちろん同姓同名の人もいるが、文脈があれば常…

「自由」とは何か─「自由」とは何でないか

「自由」とは何か。あまりにもざっくりした問いだが、いくつかのことを整理しつつ、これについて考えてみたい。 まず言葉についてみると、日本語における「自由」は、J・S・ミルの『On Liberty』(『自由論』)の訳語として定着したものであると言ってよい…

「サルでもわかる」について

「サルでもわかる」あるいは「サルにもわかる」というのは、何かのタイトルの一部としてよく見かける言葉である。これは、意味としては「バカにもわかる」のことだと言って反対する人はまずいないだろう。 もっとも、それならサルがバカであるなどと誰が言っ…

なぜ「神は存在しない」と言えるのか

なぜ「神は存在しない」と言えるのか。この問いは、二つの場合に成立するだろう。一つは、誰かが「神は存在しない」と主張しており、それに対して、その主張の根拠を問うている場合である。これは当事者でなければ用がない論争であり、実際、ここで扱うのは…

「全ては苦である」について

「全ては苦である」。これは、仏教の思想を代表する言葉の一つとしてよく挙げられるものである。古くは西洋人の仏教観を大きく歪めたものでもあるが(ニヒリズムを通り越して、消え去ってしまうことを目的とするオカルト思想と思われていた)、これについて…

「矛盾」とは何か

「矛盾」とは、避けられるべきものである。このことは、あらゆる議論の前提として、ほとんど無条件に了解されている。しかし、われわれが端的に矛盾を避けるべき根拠はあるのだろうか。そもそも、それは避ける「べき」ものなのだろうか。あるいは避ける「し…

「話が通じる」ことについて

「因果関係とは何か」の記事で、ある事象Aとある事象Bの間に「因果関係」というものを(AとBに何が入ろうが)、認めることもできるし、認めないこともできるという考えを紹介した。余談から入るが、雑な言い方が許されるならば、これが「科学」と「哲学」の…

「因果関係」とは何か

「因果関係」とは何か。因果関係と言えば、よく言われているのは「相関関係と因果関係を区別せよ」である。これは、統計の入門書には必ず書いてある。では、ある事象Aとある事象Bの関係が、「相関関係」なのか「因果関係」なのか、われわれにどうやって区別…

なぜ人は宝くじを買うのか

なぜ人は宝くじを買うのか。宝くじで当たるためである。宝くじ自体を持っていなければ、宝くじで当たることはない。 では、なぜ宝くじで当たりたいのか。それは、大金を手にしたいからである。あるいは、「夢を買う」という人もいる。 「夢を買う」というの…

「論理的である」とはどういうことか

「ポチは犬である」。ゆえに「ポチは動物である」。こういう推論がありうる。これは、「ポチは犬である」という前提から「ポチは動物である」という結論を導いているようで、論理的に見える。しかし、これは少なくとも一つの意味では「論理的」ではない(「…

「道徳」とは何か─倫理との違い、あるいは守るべきかについて

nekonaga.hatenablog.com 先日書いた上の記事で「善い行いをするために必要なのは共感ではなく理性である」という考え方を紹介した。しかし、倫理的であるために理性をはたらかせるべきである理由は他にもある。というより、日本社会ではそもそもまだ「共感…

「共感」はそんなに重要か─Paul Bloom『Against Empathy』

ポール・ブルーム『Against Empathy: The Case for Rational Compassion』を読む。邦訳されていないが(たぶんされるはず)、非常にいい本だったので紹介したい。 一言でいえば道徳に関する実践的な一冊だが(私は道徳という言葉を倫理という意味で使いたく…

なぜいろいろなものが見出されるのか─パターン認識と複雑性

www.nature.com 人間の脳が持つ基本的な、しかし奥深い機能の一つに「パターン認識」がある。こうした能力を誰もが当然のものとして備えているのはもちろん、人類が生き延びるために必要だったからであるが、つまりこの能力は生存に役に立つから進化してきた…

なぜ何もないのではなく何かがあるのか

www.scientificamerican.com 「なぜ何もないのではなく何かがあるのか(why is there something rather than nothing?)」。これは、ウィキペディアにもマニアックなエントリーがあるが、昔から多くの人間を悩ませてきた、広い意味での哲学における有名な問…

進化論の誤解(2)「ヒトはサルから進化した」について

nekonaga.hatenablog.com 突然だが、来たる2月12日(今年は日曜日)が何の日かご存じだろうか。私も知らなかったのだが、海外メディアのニュースを見ていたら「Darwin Day」というのがあるらしく、これは進化論でおなじみのチャールズ・ダーウィンの業績を祝…

現代「肉食」考─肉を食べるとはどういうことか

wired.jp wired.jpに肉食に関する記事が出ていたので、これを機会に「肉食」について書いてみたい。上の記事によれば、スタートアップの「Beyond Meat」は、植物性タンパク質をベースに肉の代用品をつくる試みをしているが、味や匂いなどの面で「肉」と見分…

脂肪と言えば…─イヌイットがデニソワ人から受け継いだ遺伝子

Cold Tolerance Among Inuit May Come From Extinct Human Relatives - The New York Times http://www.nytimes.com/2016/12/23/science/inuit-greenland-denisovans.html?smid=tw-nytimesscience&smtyp=cur&_r=1 「Molecular Biology and Evolution」に掲載…

「人工知能」への誤解はなぜ生まれるのか─人工知能(AI)とは何か

www.itmedia.co.jp IT調査会社のガートナージャパンが、「人工知能に関するよくある誤解」10のリストを発表した(https://www.gartner.co.jp/press/html/pr20161222-01.html)。「ガートナーの顧客の間で」ということだが、かなり一般的な誤解のリストにな…

脳は30歳までは大人ではない─あるいは「最近の若者は」問題の謎

edition.cnn.com 科学者が脳の研究を始めたころは、できるのは専ら死んだ人の解剖であった。それで構造はわかるが、どこがどうはたらいているのかはわからない。そこでは、死んでいる人の脳と生きている人の脳を区別して論じることができなかった。 前世紀で…

サイバー空間でも自分の身は自分で守ろうという話─あるいは「ホワイトハッカー」とは何か

www.itmedia.co.jp パソコンや携帯電話といった形でコンピュータが一般に普及して、あるいはネットにあらゆる個人情報が乗り始めてからもうかなりの時間が経ったのではないかという感じだが、当初から言われている基本中の基本を未だに守っていない人があま…

尻は顔なり─チンパンジーは尻認知細胞を持つか

www.sciencenews.org journals.plos.org 先日の記事(動物の情動や表情と情動の関係など~「情動」とは何か)で情動と表情の関係、あるいは他の動物におけるそうした関係を探れる可能性などについて書いたが、ちょっと関連する話がニュースに出ていたので紹…

動物の情動や表情と情動の関係など─「情動」とは何か

natgeo.nikkeibp.co.jp ネズミの「幸福感」を外から知る指標の一つとして「表情」、具体的には耳の赤くなり具合を見る、という方法があるかもしれないことがわかったらしい。もちろんまだハッキリしたことを言うのは難しいのであろうが、動物認知(animal co…

「名言」とは何か─名言はなぜ誤解されるのか、あるいは名言の本当の使い方

「名言」というものがある。一般的にはこれは「偉人たちが残した」簡潔な言葉であり、時に「人生の役に立つ」とされているものである。そういった本も大量に出ているし、それだけ出るということは読んでいる人も多いのであろう。 しかし、一方で「名言とは、…

『量子物理学の発見─ヒッグス粒子の先までの物語』レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル

レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル『量子物理学の発見 ヒッグス粒子の先までの物語』を読む。 両著者ともに一般向け科学啓蒙書を著している物理学者で(レーダーマンは実験物理学者、ヒルは理論物理学者)、このコンビは『詩人のための量子力学―レ…

なぜ「科学」はいくつかの分野に分かれているのか─どこまで科学で扱えるのか

nekonaga.hatenablog.com 先日の記事「ものすごくざっくり言うと「科学」とは何か」を踏まえる形で、科学についてもう少し書いてみたい。前回見たところによれば、理念としての「科学」の特徴は次の通りである。 自然現象を、背後にある「法則」の存在を探る…

ものすごくざっくり言うと「科学」とは何か

「科学とは何か」ということをものすごくざっくり描いてみたい。もちろんこれについて何らかの正しい答えがあるわけではないが、多くの科学者・科学哲学者が同意しているであろうという範囲においてみてみることにする。 最初に言葉を見ておくと、科学(scie…

人間以外の動物に「意識」はあるのか─動物の心がわかるか

現代社会では、特定の仕事に従事している人を除いては、人間以外の動物に目を向ける機会はあまりない。機会がないというか、必要性がないことが多い、と言ったほうがいいだろう。あるいは動物にふれていても、どこまで動物として扱っているかは別の問題であ…

他の動物が道具を使うのを見た人間が人間について考えたと考えられること

www.youtube.com 上の動画は、ハワイにいる珍しいカラスが道具を使っているところである。最近発表された論文(http://www.nature.com/nature/journal/v537/n7620/full/nature19103.html)に関連する動画だが、ここではその研究の詳細は脇に置くとして、とも…

「キリン」は四種の生物の総称だったという話

www.natureworldnews.com www.scientificamerican.com キリンといえば、「首が長い」ことは誰でも知っている。もっとも、もしかしたら多くの人がキリンについて知っているのは「首が長い」くらいかもしれない。だとしたら、あまりにも何も知らないであろう。…

「良書」とは何か─本であることの利点が活かされているか

「良書」とは何かについて、少し考えてみることにしたい。ちなみに、日本で出版されている本に限る話である。 まず辞書で「良書」を引くと、いくつかみてみたが、いずれも「読んでためになる書物」と出ていた。まあ、辞書だから仕方がない。これなら「良い書…

「教養」とは何か─教養観のいろいろ、あるいはなぜ教養が必要なのか

「教養とは何か」。一見すると不毛な議論になりそうな問いではあるが、これについて考えられる限り考えてみたい。いくつかの議論を参照しつつ、なるべく多様な「教養」観を挙げてみることにするが、特に目新しいことを言うつもりはないので、流し読みしつつ…

我々は彗星から来たのか 我々はアミノ酸か 我々はどこへ行くのか

www.afpbb.com phys.org 欧州宇宙機関の無人探査機「ロゼッタ」が、彗星のコマからアミノ酸の一種である「グリシン」を見つけたらしい。あわせてリンも検知されたとのことで、生命の「材料」が明白に彗星からみつかったとして話題になっている。 これまでに…

なぜ雑多な本を読んだ方がいいのか─濫読にするか、座禅にするか

nekonaga.hatenablog.com 先日「フィルターバブル」の話をしたが、今回は「なぜ雑多な本を読んだ方がいいのか」ということで、そこからさらに進んだ話をしてみたい。前回の記事を読んでいない人のために、以下に要点をまとめておこう。 (1)検索サイトやSN…

「自我のインターネット」─思考の格差が、広がっているのだ

nekonaga.hatenablog.com 以前、まったくの思い付きから「なぜアマゾンのおすすめはあてにならないのか」という記事を書いてみたが、同じ問題をもっと一般化して論じているイーライ・パリサー『フィルターバブル──インターネットが隠していること』という本…

なぜ自然は汚くないのか、あるいは自然は本当に美しいのか

「なぜ自然は汚くないのか」。ありていに言えば「なぜ自然は美しいのか」だが、ともかくこれについて考えてみたい。さしあたり「自然とは何か」という問題もあるが、これについては深く考えず、日本語における最も一般的な用法としての「人工物がまったく、…

岸由二・柳瀬博一『「奇跡の自然」の守りかた』─「自然保護」とは何か

「奇跡の自然」の守りかた: 三浦半島・小網代の谷から (ちくまプリマー新書) 作者: 岸由二,柳瀬博一 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2016/05/09 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る ドーキンス『利己的な遺伝子』やE.O.ウィルソン『人間の本性に…

借りた本に書き込みをする人は何を考えているのか(文字通りの意味で)

「借りた本に書き込みをする人は何を考えているのか」。人に本を貸して、返ってきたら書き込みがなされていて、「何を考えているんだ」と思った経験のある人はそれなりにいるだろう。あるいは、逆にあなたは「借りた本に書き込みするのが問題なのか」と思っ…

ダーウィン的思考法のすすめ─古典を読むべき本当の理由

唐突だが、ダーウィンの「思考法」について考えてみたい。ダーウィンの最も有名な業績である「進化論」については以前の記事を読んでいただくとして(ダーウィン進化論の何がすごいのか)、ここではあまり知られていない晩年の著作にふれつつ、ダーウィンの…

書店空間のかくれた次元─何が繰り広げられているのか

書店で、自分が見たい棚の前に(もっと言えば自分が立ちたい場所に)別の誰かが立っていて(もちろんあちらも立っているだけでなく本をみているのだが)、どうアプローチしようかとちょっと困ったことはありませんか。 まあ、もともと目当ての本がある場合は…

「重複表現」の問題(2)なぜ「違和感を感じる」に違和感を覚えるのか

nekonaga.hatenablog.com 「重複表現」について、前回はそれを嫌うことの妥当性についてみてみたが、今回は「なぜそれが生じるのか」も含めてもう少し真面目に考えてみることにしたい。具体的には、なぜわれわれは「頭痛が痛い」という言葉を聞くと頭が痛く…

『文明を変えた植物たち─コロンブスが遺した種子』酒井伸雄

酒井伸雄『文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子』を読む。 周知の事実だが、現代のわれわれにとって身近な植物の中には、アメリカ大陸原産のものが決して少なくない数ある。これが何を意味しているかというと、それらはいずれも、大航海時代にヨー…


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